ワークフローシステム
目次
ワークフローシステムは企業の業務スピードを向上させ、業務効率化、内部統制強化に不可欠なツールとして多くの企業で導入が進んでいます。ここでは、 ワークフローシステムの基本知識と導入のメリット、そして失敗しないためのポイント を説明します。
ワークフローとは
ワークフローシステムについて説明する前に、そもそもワークフローとはどういった意味を持つのでしょうか。
ワークフローとは、その名のとおり「ワーク(仕事・業務)」と「フロー(流れ)」を組み合わせた言葉であり、業務の流れを図式などで定義したもの
です。以下で解説していきます。
ワークフローの基礎知識
もともとワークフローは、製造業において作業工程を設計し、生産効率を向上させるために活用されていました。作業工程に関わるモノの流れや人の作業、業務のプロセスを可視化・制御することで、生産性の大幅な向上を実現しました。
近年では、ワークフローは製造業の作業工程に限らず、幅広い業務で用いられています。多くの場合、業務を進めるうえでは、書類の作成・起案や承認といったプロセスを踏むことになります。たとえば、契約書を締結する際は、契約書の作成・起案を行い、責任者が承認した後に、部門による決裁が行われることになるでしょう。
ワークフローは、そのような 業務上の書類の流れを扱う場合が多い といえます。
ワークフローによって業務改善・業務効率化が図れる
ワークフローによって得られる 大きなメリットとしては、業務改善・業務効率化 が挙げられます。ワークフローでは、まず対象となる業務の流れをパターンごとに洗い出し、各パターンを可視化します。
各パターンを可視化することで、以下のような情報を明確に捉えることが可能です。
- 業務の作業内容や手続き内容
- 業務に関係する部署や担当者、およびそれぞれの役割
- 関係者の間でやり取りされる情報の内容(文書やデータなど)
これまで暗黙知となっていた上記のような情報がワークフローによって可視化されることで、関係者の間で業務に対する客観的な評価を実施できます。つまり、 「モノ」「ヒト」「情報」「プロセス」といった経営における重要なリソースの情報共有 が図れるのです。
そして、ワークフローを用いた客観的な評価によって、 現状の業務の問題点や無駄な箇所、非効率さが浮き彫りになってくる でしょう。業務上の問題点や非効率さを正しく把握し、適切な対策を実施することで、業務改善・業務効率化が図れます。さらには、 意思決定スピードの向上や経営判断の合理化 など、 経営全体的なメリット も生まれます。
このように、ワークフローは 「ヒト」「モノ」「情報」「プロセス」などの経営におけるリソースを最適化し、業務効率化や情報伝達の迅速化・精緻化を実現 するのです。
ワークフローシステムとは
ワークフローシステムとは電子的な手段によって業務の流れを定義し、その流れに従って業務を流し、その状況をモニタリングできるコンピュータソフトウェアです。 紙ベースの業務を電子化することによって、 業務の大幅なスピードアップと効率化 を実現するだけでなく、 業務ルールの順守、情報管理レベル向上の効果 も期待できます。英語ではWorkflow Management System (WFMS)と言います。
稟議書
この種のワークフローで 最も典型的なものが稟議のためのワークフロー です。大きな企業や団体では重要な決定に際して稟議書を作成し、関係部署の責任者の合議を取ります。そもそも稟議書とは、重要事項を決定するための会議に先立って関係者に合議をとっておくためのもので、本来、決定そのものは会議で行います。しかしながら、すべての事案に関して会議を開くことは現実的には不可能なので、多くの事案は稟議書を作成して関係者の合議を取ったうえで、会議は開かず責任者の決裁を得るのです。
企業で回付される稟議書には、例えば
- 物品や設備の購入
- 契約の締結
- 製品やサービスの開発投資
- 海外出張
- 製品やサービス価格の決定
- 人材の採用、異動、組織変更
などさまざまなものがあります。
稟議書は複数の関係者、関係部署に合議を取るため、回付するのに時間がかかります。特に回付先が分散していて書類を社内便で送付しなければならない場合や、関係者が出張等で不在にしている場合はなおさらです。さらに、稟議書を起票した人は今どこに稟議書が回っていて、いつ戻ってくるのか把握することも簡単ではありません。企業の意思決定である稟議書決裁に時間がかかることは、 業務スピードを遅らせ、ひいては経営にも悪影響を与えます。 企業にとっては大きな問題です。
企業経営を加速するワークフローシステム
企業には稟議書以外にも担当者から上長や関係者への各種報告書、あるいは人事・総務への各種申請書などさまざまな書類が存在します。これらも、関係部署に回付され必要な業務が行われています。 企業の業務プロセスはまさに書類の回付によって動いている と言えるでしょう。
ワークフローシステムは紙ベースの書類の回付と印鑑で行われている情報伝達、承認、決裁を電子的な手段に置き換えます。それにより、 書類の送付にかかる時間はゼロ になります。また必要に応じて 複数の人に同時に書類を回付すること もできます。起票者は稟議書が 今どこまで回っていて、どこで止まっているかを簡単に確認すること ができます。回付された人はPCやスマートフォンがあれば 出張中であれどこでも中身を確認し、承認、決裁する ことができます。
このように、ワークフローシステムは 決裁プロセスを格段にスピードアップ します。ワークフローシステムはいまや 現場の業務を効率化し企業の意思決定を加速する ものとして、欠かせないものとなっているのです。
BPMSとの違い
ところで、ワークフローシステムと似た言葉にBPMS(Business Process Management System)というものがあります。ワークフローシステムが現在の業務フローを電子化し自動化することに重きをおいているのに対し、BPMSは現在の業務フローを分析し最適化することに重きを置いています。従って、BPMSにはワークフローシステムにはないシミュレーション機能などの分析機能が備わっています。
ワークフローシステム導入の目的とメリット
前述したとおりワークフローシステムは紙ベースの申請・承認業務や報告業務を電子化することで業務プロセスのスピードアップと効率化を図るものです。主な効果としては以下に述べるものがあります。
稟議書、申請書の決裁期間の短縮
ワークフローシステムを導入してすぐに現場が感じることができる最も大きなメリットが決裁期間の大幅な短縮です。ワークフローシステムでは PCやスマートフォンさえあれば、いつでも、どこからでも承認、決裁ができ、資料を送付する必要もありません。 出張で不在でも、回付先が離れていても関係なくなるのです。
さらに、ワークフローシステムには決裁を早める重要なしくみがあります。それは、今、書類がどこまで回付されていてどこで止まっているか、そして誰がいつ承認したかを 関係者がいつでも確認できる ことです。
申請者は承認が滞っている合議者に連絡して催促することができます。さらに、どれだけ書類が滞留したかも一目瞭然になります。いつでもどこでも承認・決裁ができる環境とあいまって、合議者、決裁者には速やかに決裁しなければならないという圧力が働くのです。
従来の紙ベースでは、合議先の多い稟議書は稟議開始から合議を経て決裁されるまで1週間~2週間かかることはざらでしたが、ある大手企業ではワークフローシステム導入によって決裁期間が平均11日から6日間に短縮されました。(⇒事例紹介へ)簡単な申請であれば1日から2日で決裁されるようになります。このスピード感に慣れてしまうと、紙の決裁には決して戻れません。
各種申請業務の効率化
ワークフローシステムは申請業務に必要なさまざまな手間を削減し業務効率化に貢献します。
大きく削減される手間としては、
- ① 過去の決裁済み文書を参照するためにファイリングを探す手間、あるいはコピーを依頼して送付してもらう手間
- ② 申請書のフォーマットを最新に維持し利用者に周知させる手間
- ③ 申請者が申請書を印刷して回付用ファイルに綴じて回付する手間
- ④ 合議者が次の合議者に回付、あるいは送付する手間
- ⑤ 申請者が決裁の進捗状況を確認する手間
- ⑥ 決裁後、申請書を所定の場所にファイリングする手間
- ⑦ 決裁されたことを申請者に連絡する手間
などがあげられます。
申請文書の回付そのものの効率化 はもちろんですが、見逃せないのが 過去の決裁文書を簡単に参照できる ようになることです。紙文書では、特に原本が他地区にある場合、内容確認するため依頼を出してコピーを送ってもらうことになり、依頼する人も依頼される人も余計な手間がかかります。
ワークフローシステムでは高度な検索機能で過去の申請文書を素早く検索し、その申請文書をコピーして新たな文書を作成することが可能です。過去の申請文書を参考にすれば新たな申請文書の作成も短時間で済みます。さらに、 記載漏れや単純なミスが減るなど申請文書の品質が向上 し、つまらない理由で申請書類が差し戻されるなど余計な時間がかかることを防ぐことができるのです。
内部統制強化、コンプライアンス順守
組織内部に適用されるルールや業務プロセスを整備し適正に運用することを「内部統制」といいます。企業では決裁内容や決裁金額に応じて決裁者や回付先が細かく決裁ルールで決められています。例えば、設備を購入する場合、100万円未満は課長決裁、100万円以上1000万円未満は部長決裁と決裁ルールで定められていれば、110万円の設備を購入する場合は必ず部長決裁を受けなければなりません。
ところが、故意、あるいは決裁ルールに関する知識不足やケアレスミスなどで110万円の設備購入を課長決裁で購入してしまうことはありえます。内部統制が弱く業務プロセスのルールが守られないと、 コンプライアンス違反(法令違反)につながることもあるため、多くの企業は内部統制を強化するための教育や仕組みづくりに力を入れています。
ワークフローシステムは、例えば、申請文書毎にあらかじめ決裁ルートを定義しておき、決裁金額に応じて決裁ルートを自動的に選択するなど、人為的なミスを防ぎ、確実に ルールに沿った決裁を行うことをサポートする機能 を提供しています。また、 複雑なチェックロジックも実装することが可能 です。ワークフローシステムを、コンプライアンス強化を第一の目的として導入する例も少なくありません。
ペーパーレス化の推進(安心安全な情報共有)
ワークフローシステムの導入は該当する申請業務をペーパーレス化することにほかなりません。前述したとおり、ワークフローシステムによって申請業務は効率化し劇的にスピードアップします。もう紙ベースの業務には戻れません。ワークフローシステムの対象業務はどんどん広がっていきます。
ワークフローシステムの中には 現場の人たちが自力で簡単に申請画面を作成して新たな申請業務を追加できる ようなものがあります。このようなワークフローシステムを導入すれば、小さな組織内で閉じるちょっとした申請書や報告書までがワークフローシステムにのってきます。 ボトムアップでどんどん紙文書が電子化 されていくのです。
働き方改革を推進する上でペーパーレス化は必要条件です。在宅勤務もサテライト勤務もペーパーレス化が進んでいなければできません。ペーパーレス化は安心安全な情報共有化を実現します。ワークフローシステム導入により、いつでも、どこからでも、権限に応じて、情報を引き出せるようになるのです。そのため、ワークフローシステムは 働き方改革を推進する有力なツール としても認識されています。
ワークフローシステムの基本機能
ワークフローシステムは、対象とする業務や規模によって重視すべき機能が変わってきます。現在、多くのワークフローシステムが市販されていますが、押さえておきたいポイントを紹介します。
入力フォーム作成機能
入力フォーム作成機能は、 申請内容をWeb画面から入力するための画面やエラーチェックなどの処理ロジックを作成する機能 で、ワークフローシステムに必須の基本機能です。
ワークフローシステムでは対象となる申請業務の画面を設計すれば、同時にそのデータを格納するデータベースも内部に作成されます。申請者が登録したデータがデータベースに格納され、次項で説明するワークフロー制御機能によって回付されていきます。
入力フォーム作成機能でポイント となるのは
- (1)どれだけ簡単に画面が作成できるか
- (2)プログラミングせずにどこまで自由に作りこめるか
- (3)いざとなればプログラミングで拡張可能か
です。
(1)どれだけ簡単に画面が作成できるか
多くのワークフローシステムは現場の人たちが簡単に入力フォームを作成できるような機能を準備しています。画面は ブラウザー上の操作によって作成 していきます。HTMLなどの知識は特に必要ありません。申請に 必要な項目を定義 し、 ドラッグアンドドロップで配置 を決め、 項目のプロパティを設定 します。例えば、入力形式としてテキストエリア、ドロップダウンリスト、チェックボックス、ラジオボタンなどを設定していきます。実際のWeb画面を見ながら設定するので完成形と同じイメージで作業が進められます。
さらに、よくある申請書のフォームをテンプレートとして多数準備しているワークフローシステムもあります。 テンプレートを使えば一から作成するよりも早く作成できます。 また、既にExcelなどで作成された申請フォームを読み込んで入力フォームを生成できるものもあります。
(2)プログラミングせずにどこまで自由に作りこめるか
機能をプログラミングせずに、すなわち、 現場自身でどこまで作成できるか は重要です。
まず、画面イメージを作成した後に最もよく追加する処理は エラーチェック です。エラーチェックとしては、例えば必須入力、文字型/数字型や数字の範囲、文字数など項目単体の簡単なチェックや、複数項目間にわたる大小比較や多少複雑なロジックを伴うものなどがあります。
次によく使う処理はデータの 選択入力 でしょう。固定の選択肢をドロップダウン、チェックボックス、ラジオボタンで選択させるだけでなく、データベースを検索して候補を選ぶような処理もよく使います。
画面構成については単票形式だけでなく、 伝票形式(ヘッダー・ディテール)に対応しているか 。一覧表示が複数行に対応しているかなど細かな部分にも目を配りましょう。
軽視できないのが 画面のデザイン です。社内システムにおいて一画面ずつ個別にデザインにすることはないと思いますが、全体としてその企業に合う見栄えにすることはよくあります。これは、デザインフォームをテンプレートとしてあらかじめ作成しておくことで、それぞれの企業に合わせた画面デザインとすることができます。
(3)いざとなればプログラミングで拡張可能か
申請業務の中には高度な処理が必要な場合があります。例えば、複雑なロジックにより経路を自動で決定したい、基幹システムのデータを参照してエラーチェックやデータの自動入力を実施したい等です。
すべての申請業務をプログラミングで作りこむのはいい選択ではありませんが、作りこみが必要な場合にそのワークフローシステムが対応できないと、 その業務だけが別システムでの運用 となってしまいます。そうすると用途に応じてさまざまなワークフローシステムが乱立することになり、使い勝手が悪く好ましくありません。 プログラミングによる拡張性は社内の業務をひとつのワークフローシステムに統合するためにも重要なポイント です。
ワークフロー制御機能
ワークフロー制御機能は、作成された文書をあらかじめ設定された経路やルールに従い、関係者に回付していく機能であり、ワークフローシステムの心臓部にあたる機能です。
申請文書を回付すると承認すべき申請文書一覧画面に新しい申請が一行追加されます。同時に次の回付先に承認依頼メールが送信され、メールに記載されたURLをクリックすることで該当文書の承認画面が表示されます。承認画面で承認すれば次の承認者へ、差戻しすれば申請者、あるいは途中の承認者に戻るというのが基本的な動きです。
現実の業務では、さまざまな経路で業務が回っています。 現実の業務プロセスに柔軟に対応できること は、スムーズにワークフローシステムを導入するために非常に重要です。下記に実際によく使われる経路制御について紹介します。
経路制御名 | 説明 |
---|---|
直列 | 最も基本的な経路です。予め設定された経路に従い、順次、次の承認者に1本の経路で申請書が回付されます。 |
分岐 | 途中から経路が分岐し、条件に応じて手動、あるいは自動でひとつの経路が選択されます。 |
並列(合議) | 途中から経路が分岐し、分岐した経路すべてに申請書が回付されます。すべての経路の承認が完了後、分岐が終了し次に進みます。 |
多数決、全員承認 | 途中で複数の承認者に申請書が回付されます。全員、あるいは指定数以上が承認すれば、次に進みます。 |
サブ経路 | 経路を階層化します。複数部門にわたる申請の場合に、申請者が回付する承認者全員を指定しなくとも、例えば経理部門内は経理部門担当者が内容に応じて承認者を動的に設定できるようにすることができます。 |
事前通知・検討指示(根回し) | 申請開始と同時に、各承認者及び関係者に事前に申請内容を通知します。いわゆる根回しです。 |
否認・差し戻し | 承認者が申請者(否認)あるいは途中の承認者(差し戻し)にワークフローを戻します。 |
中止 | 申請者がワークフローを中止する機能です。ワークフローは申請者に戻されます。 |
取り戻し | 承認者が承認後にその承認を取り消して、申請書を自分のところに取り戻す機能です。例えば、承認者不在の場合に別の承認者に切り替えるようなときに有用です。 |
引き上げ承認 | 承認者が不在の場合、次の承認者が申請書を引き取って承認できる機能です。例えば課長不在の場合に部長が課長で滞っている申請を、課長を飛ばして承認することが可能です。 |
デッドライン | 指定期日を過ぎると自動的に承認されたこととして次に進めます。 |
代理申請、代理承認 | 申請者、承認者が不在の場合に、代理人設定をしたうえで代理承認する機能です。通常、上位の職種が代理人を指定します。 |
まとめ申請 | 1つの入力画面で申請書を作成すると、派生する申請書を自動的に作成します。例えば、引っ越しや家族構成の変更に伴う種々の会社への申請を行う場合、共通項目を入力すれば、それを引き継いで必要な申請書が作成されます。申請を漏れなく行うことが可能です。 |
連続申請 | ある申請書が決裁されると同時に、次の申請書を開始させます。前後関係のある申請業務を遅滞なく実施することが可能です。 |
ユーザ・組織管理機能
ワークフローシステムにおいて、 ユーザ・組織情報は最も基本的なマスター情報 です。ワークフローシステムの運用では経路や権限はユーザだけでなく組織や役職で指定します。さらに、人事システムにはない、例えばプロジェクトや業務担当などのグループをワークフローシステム内で自由に作成することができます。
こうすることで、 経路設定や権限設定の維持 がしやすくなります。さらに、階層化された組織情報を利用して申請者の上長、さらにその上の上長など組織階層構造にそって経路を自動的にたどっていく機能を有するワークフローシステムもあります。すべてユーザ・組織情報がベースとなっています。
企業では定期的、あるいは不定期に 組織変更や人事異動 があります。組織変更や人事異動に対応するために、人事システムとデータをつないで自動的にユーザ・組織情報の更新を行います。比較的小規模で人事システムとつながない場合は、ワークフローシステム内で組織変更や人事異動情報を登録します。その場合事前登録機能があることが重要です。事前登録しておいて期日になれば本番データと自動的に置き換えます。
また、 人事異動・組織変更の際の引き継ぎ機能 も重要な機能の一つです。例えば課長が異動で交代する場合、ある一定期間は新旧課長が申請文書を参照できる、あるいは承認できることを許可する機能です。これにより、回付中の申請文書のスムーズな引き継ぎが可能になります。
権限管理機能
ワークフローシステムは多くの申請文書を保存する文書管理システムという側面も持っています。 文書管理システムと同じように、申請文書単位、あるいは申請文書を格納するフォルダー単位で権限の設定を行います。
権限設定とは 文書やフォルダーに対し誰が何をできるかを設定すること です。「誰が」はユーザ(個人)あるいは役職や所属組織やその他グループで指定します。「何をできるか」は、文書を見る、改訂する、フォルダーの設定を変えるなど、文書やフォルダーへのさまざまな作業権限です。作業の種類は多岐にわたり、ひとつずつ利用者と結びつけると手間がかかるため、作業権限の集まりをロール(役割)としてまとめます。ロールは例えば、一般利用者、決裁権限者、業務管理者などです。そしてロールと利用者を結びつけるのです。このようにすることで権限の設定と維持が容易になります。
外部システム連携機能
ワークフローシステムはそれ単体だけで運用することもできますが、 周りのシステムと連携することで活用業務が広がり、利便性が向上 します。よく使われる外部システム連携は次の4パターンです。
-
(1)ワークフローで決裁された情報を後続のシステムにつなぐ
例えば、名刺作成申請をワークフローシステムで申請して、決裁後にデータを発注につなぐ、出張旅費精算で決裁された情報を経理システムにつなぐなど、決裁結果を後続のシステムにつなぎます。ワークフロー側で決裁後に起動する処理を定義して実現します。 -
(2)先行するシステムからワークフローシステムにつなぐ
基幹システムからAPI経由でデータをつないで、自動的に申請をスタートさせます。例えば、購買システムからの発注データを受け取って決裁する。さらに決裁後にそのデータを基幹システムに返すこともできます。 -
(3)グループウェアやポータルサイトと連携する
グループウェアやポータルサイトとログインを共通化してシングルサインオンを実現したり、ポータル画面にワークフローシステムの一部の画面、例えば、決裁依頼一覧画面を表示したりします。 -
(4)基幹システムのプログラムから直接ワークフローシステムの機能を利用する
ワークフローシステムで準備されたさまざまなAPIを使って、基幹システム等のプログラムから直接ワークフローシステムの機能を呼び出して利用します。
移行機能
見落とされがちですが重要なのが移行機能です。
まず、導入時に必要なのが インポート機能 です。既にワークフローシステムを運用している場合は、そこからエクスポートされた申請データを新たなワークフローシステムにインポートします。ワークフローシステムのデータ移行は文書本体以外に承認履歴、さらに承認履歴にあるユーザ・組織情報が整合性を保持した状態で移行する必要があり複雑なため、綿密な調査と準備が必要です。これはベンダー等に依頼することになるでしょう。
一方、ワークフローシステム運用で日常的に必要なのは、あるワークフローシステムから別のワークフローシステムにデータの一部を移すことです。例えば、開発・検証サーバで新たに作成した申請画面を本番サーバへ移行する。社内用サーバのデータの一部を関係会社用サーバで公開するなどです。実際の運用ではある程度規模が大きくなると複数のサーバを運用することが多くなります。その場合に フォルダーやデータの一部をエクスポートしインポートする移行機能が必要 になってくるのです。
ワークフローシステム製品選定のポイント
市場では多くのワークフローシステムやワークフローサービスが提供されており、その中からひとつを選択するのは容易ではありません。一般的な 評価ポイント として下記を押さえておきましょう。
(1)申請画面作成の作りやすさ
プログラミング等の専門知識や技術を持たない、 実際に運用する担当者が申請画面を作成できる ことは、ワークフローシステムをさまざまな業務に広く適用させるための必須条件といってもいいでしょう。実際に利用する現場が申請画面を作成できるか確認しましょう。
(2)必要な処理を作りこめるか
実際の業務で使われている処理を 現場担当者 で追加できるか、さらには、プログラミングを追加することで カスタマイズやアドオンできるか を確認しておきましょう。
(3)経路制御の自由度
さまざまな業務プロセスに対応するためには、 経路制御の自由度が高い ことが必要です。 現在の決裁ルール、業務プロセスに沿った経路が設定できる こと。さらに、現実の業務に臨機応変に対応できることが必要です。例えば、本日中に提出しなければならない見積書の途中の承認者が不在になっている、引っ越しや中途入社した場合に必要な申請書類を漏れなく一気に流したいなど、 異例の事態や具体的な業務要求に対応できる か確認しましょう。
(4)大規模運用への対応
ワークフローシステムを数千人以上の大規模で運用する場合はそれに耐える 性能、及び運用機能 を備えていることが必要になります。例えば、人事異動・組織変更への対応、管理者の階層化、グループ会社での分割利用、そして何より大容量、大人数利用での性能。性能は導入前に評価が難しいですが、 大規模利用での運用実績 を確認するのもいいでしょう。
(5)スマートデバイス対応
スマートフォン、タブレットへの対応 はもはや必須条件です。外出先から簡単に承認できるかどうかは、ワークフローシステム導入効果を大きく左右します。
(6)拡張性
ワークフローシステムは業務プロセスの基盤です。導入が成功すればそこにあらゆる業務がのってきます。 基幹システムとの連携、外国語対応 など予想されるビジネスの拡張に対応できるかについても検討しておきましょう。
(7)ベンダーの技術サポート
製品本体ではありませんが、 ベンダーの技術サポート は非常に重要です。現在、標準機能にはなくても、なんとか顧客のニーズを実現すべく工夫し、場合によっては機能追加して実現を提案してくれるようなベンダーの製品を選びましょう。
ワークフローシステム導入手順
ワークフローシステム導入はシステム部門と関係部門が協力して進めることが重要です。典型的な導入手順は次のようなステップを踏みます。
(1)推進体制の整備
システム部門、対象となる業務部門とでワークフロー導入チームを作成します。いうまでもありませんが、 利用部門の積極的な参画 が重要です。
(2)対象業務の洗い出しと業務ルールの確認
ワークフローシステムにのせる 業務の帳票の収集 、そして 決裁ルール の確認を行います。対象業務の内容や量によって、ワークフローシステムの選定や申請画面の作成方針が変わってきます。
(3)ワークフローシステムの選定と導入
今回対象とする 業務の要件に対応できるワークフローシステム を選定し、導入します。選定に際しては前項のポイントを確認しましょう。
(4)人事・組織情報の準備
ユーザ・組織情報は、通常、 既存の人事システムからデータを受け取って登録します。 必要な情報がどのように取り出せるか、また、そのデータからワークフローシステムが取り込み可能なデータが生成できるかをベンダーと確認しておきましょう。定期的な人事異動・組織変更に対応するために、定例バッチ処理にしておくといいでしょう。
(5)申請画面の作成(開発)
洗い出した対象業務の申請画面を作成します。申請画面はWeb画面で直接作成する、あるいはExcelなどで作成されたものをアップロードして作成するなどの方法があります。エラーチェックや他システムを参照してデータ入力することなど、さまざまな処理を追加できますが、 どの程度まで作りこむかを方針として決めておく 必要があります。
(6)経路の設定
申請業務毎にいくつかの承認経路を定義しておきます。申請者はあらかじめ準備された経路から承認経路を選びます。必要に応じて経路を追加、修正することも(あるいは追加、修正させないことも)可能です。金額などに応じて自動で選択する場合はそのように設定します。
経路設定は手間がかかりその維持も大変です。 人事異動時にも影響を受けにくくする ため、組織や役職で指定し、組織階層に沿って自動的に設定されるような機能も駆使して設定します。
(7)権限の設定
申請文書や申請文書が格納されているフォルダー毎に権限を設定します。組織内で閉じる申請文書はフォルダー単位にその組織に権限付与するのが最もシンプルで維持も簡単です。一方、組織横断する場合は、文書単位に本人とワークフロー上の関係者に権限付与する方法もあります。
(8)運用体制の整備
サービス利用時間、定例のシステム運用、問い合わせ対応、トラブル時の対処など、 運用ルール を決めるとともに体制を整備します。
(9)エンドユーザ教育
業務ルールを含めた 利用マニュアルを作成し、エンドユーザ教育を実施 します。教育内容は、申請や承認、決裁を行う一般利用者向けのものと、申請業務の権限、経路の維持や、新たな申請業務開発をする業務管理者向けのものに分けて実施します。
(10)本番移行
いよいよ、本番移行です。開発・検証環境で開発した申請画面や経路、権限などの設定情報を本番機に移します。
ワークフローシステム導入を成功させるコツ
「ワークフローシステムを導入し当初予定の業務は電子化し順調に運用できている。ただ、新たな業務を電子化するためにはさらにソフトウェア開発が必要で手間もかかるため、 なかなか全業務に広がっていかない。 数年後、新たな業務のシステム構築に伴い ワークフローシステムと連携させようとしたが機能不足でうまくいかない。 そこで別のワークフローシステムを導入することになった。社内には用途別に複数のワークフローシステムが存在している」というような話はときどき耳にします。
特定用途に限定している場合を除き、ワークフローシステムの導入効果を最大化するためには、 できるだけ多くの業務でワークフローシステムを活用できるようにすること が重要です。そこで、これまでのワークフローシステム導入の経験から、ワークフロー導入を成功させるポイントをいくつか紹介します。
現場が自力で申請業務を作成できる環境を整える
新たな申請業務をワークフローシステムで運用する際に、情報システム部門やITの専門家が当該部門に要件ヒアリングして、仕様書を作成して該当部門の確認をとって開発するというスタイルでは特定の業務はワークフローシステムに乗せられても、ペーパーレス化につながる広範囲の業務をカバーすることはできません。申請フォームの作成や承認経路の設定、権限の設定などの 基本的な申請画面の作成はユーザ部門でほとんどできるようにする ことが重要です。
そのためには、まずは、 特別な専門知識がなくとも申請画面が作成できるようなワークフローシステムを導入する ことです。次に、ワークフローシステムを導入する情報システム部門が中心となって、それぞれの会社なりの申請画面の標準パターンを作成し、それをベースに各部門が独自に申請画面を作成できるように教育を実施しましょう。作成方法に関するQ&A窓口を設けることも必要です。各部門が利用できる開発環境を別途準備して、本番化だけは情報システム部門で実施するというのもいいでしょう。
決裁後にデータを基幹システムと連携する処理が必要な業務は情報システム部門がかかわる必要があります。ただし、圧倒的多数の文書は単純な申請・承認で、各部門で開発できるものが多いのです。
汎用的かつシンプルな画面で早期のペーパーレス化をめざす
ワークフローシステムを導入して、数百、数千の紙帳票を電子化してペーパーレスを目指す場合、それぞれの帳票に対応する画面を個別に作成しようとすると、かなりの時間と費用がかかってしまいます。
対象の帳票を絞るためにまず考えるのは 申請書のフォーマット統一 でしょう。多くの部門がローカルで使用している申請書には、目的が同じでもレイアウトや項目が少しずつ違うものが多数存在します。この際、それを統一フォーマットにすることは好ましいことですが、これも関係部門間で調整しながらフォーマットを統一するのは骨の折れる仕事です。
最も効果的なのは、 汎用的かつシンプルな申請画面 にすることです。
申請フォーマットをいくつかのグループに分け、あるグループ内での共通項目のみを画面に設定します。それ以外はテキストエリアにフリーで記述するようにするか、あるいは別途添付ファイルで詳細な資料を添付するようにするのです。
例えば、たいていの稟議書は①起案者、②起案番号、③作成日、④区分、⑤仰裁概要、⑥実施理由、⑦実施時期、⑧実施内容、⑨添付ファイル、程度の項目があれば運用できます(実際、当社でも運用しています)。何を記載するかは、それぞれの稟議書の種類によって変わってきます。このフォーマットを使い回して、タイトルだけ変え、必要に応じフォルダー(業務)を分けて運用します。
これをベースに 優先順位をつけて必要性の高いもの から、細かく項目を規定した申請フォームを開発します。こうすることで、現実的な費用と期間の範囲ですべての帳票を電子化することができます。
もちろん、後続のシステムにデータを渡すような申請業務は個別のフォーム設計が必要です。また、特定業務に特化した高度なエラーチェックを実装した業務画面を望む意見もあるでしょう。それは、すこしずつ改善していけばいいのです。汎用的な画面での運用であっても、 ペーパーレス化すれば、早期にワークフローシステム導入効果を出すことができます。
ワークフローシステムは将来の拡張も視野に入れて選定する
多くの稟議書や申請書類を電子化し、初期の目標を達成、活用が広まってくると、ワークフローシステムは徐々に 業務プロセスのインフラ として位置づけられてきます。例えば、ある基幹システムから申請書を自動生成して決裁を開始する、決裁後のデータを基幹システムに送る、出張先から報告書をスマートフォンから入力するなど用途は無限です。
そのため、ワークフローシステムの選定においては、現在必要な機能だけでなく、将来必要となる機能に対応しているか、対応できるベンダーか、個別の拡張に関して相談にのってくれるベンダーを考慮しておくことが非常に重要です。
ワークフローシステムの導入が成功すればするほどその用途は広がっていきます。機能毎にワークフローシステムが複数存在するのは使い勝手が悪く、サポートも手間がかかります。決裁業務はひとつのワークフローシステムに統合できるのが理想です。ワークフローシステムは インフラという概念で長く使えるものを選択すること が重要です。
ワークフローシステム導入の成功事例
楽々WorkflowIIをワークフローシステムとして導入し成果を挙げている、企業様の事例をご紹介します。
国立大学法人東京科学大学(旧 東京工業大学)様の導入事例
国内最高峰の理工系総合大学である国立大学法人東京科学大学様は、データを用いた大学経営改善の取り組み「IR(Institutional
Research)」を推進するため、分析活動の基盤となるデータベースの構築に着手。
楽々WorkflowIIを活用した申請業務の電子化・効率化の取り組みにより、学内のデータの収集・可視化を行い、データベースの構築を推進に成功。さらに、一部申請業務の業務時間の効率化を目指されている。
東京科学大学が楽々WorkflowIIを活用した「大学DX」を推進中。複雑な大学組織を可視化する、独自の導入戦略とは。
キリンホールディングス株式会社様の導入事例
国内ビールメーカーの草分け的存在であるキリンビール株式会社をはじめ、170社以上のグループ会社を傘下にもつキリンホールディングス株式会社様は、コロナ禍における在宅勤務体制を構築するため、ワークフローシステムの導入によるグループ全域でのペーパーレス化を推進。
楽々WorkflowIIの操作性の高さや画面設計のしやすさなどを活かすことで、導入をスピーディーに進め、約8か月間で、キリングループの約40社、従業員約15,000人にワークフローシステムを展開。グループ全域でペーパーレス化が推進され、「原則在宅勤務」の体制が構築に成功。
キリングループ約40社、約15,000人に、約8か月間で楽々WorkflowII導入を完了。グループ全域でペーパーレス化を実現し、在宅勤務体制を構築。
株式会社横浜銀行様の導入事例
神奈川県横浜市西区に本店を置く株式会社横浜銀行。同行では働き方改革の推進に向けた業務削減運動に取り組み、あらたなワークフローシステム導入による稟議書や帳票類の電子化を検討。その結果、機能面と金融機関への導入実績を評価して楽々WorkflowIIを導入した。稟議書や帳票の起案・作成の時間を削減するとともに、回付時間も大幅に短縮した。
業務工数を削減し、業務の効率化、ペーパーレス化を推進。