国立大学法人東京科学大学(旧 東京工業大学)
楽々WorkflowIIを活用した「大学DX」を推進中
目次
東工大が楽々WorkflowIIを活用した「大学DX」を推進中
複雑な大学組織を可視化する、独自の導入戦略とは
国内最高峰の理工系総合大学である国立大学法人東京工業大学(以下、東京工業大学)は、データを用いた大学経営改善の取り組み「IR(Institutional Research)」を推進するため、分析活動の基盤となるデータベースの構築に着手。楽々WorkflowIIを活用した申請業務の電子化・効率化の取り組みにより、学内のデータの収集・可視化を行い、データベースの構築を推進している。さらに、一部申請業務の業務時間の効率化を目指している。
分析の基盤となるデータベースを構築するため、学内のデータを収集・可視化する仕組みの構築が急務だった
大学における「IR」をご存知だろうか。IR(Institutional Research)は、教育や研 究、財務など、大学の活動に関する情報を収集・可視化・分析し、大学経営や研究に活用する取り組みのことだ。1960年代にアメリカで発展し、国内の大学では2010年代以降に政府が牽引する形で活発化していった。特に、最近では、世間的なDX推進の影響も受け、デジタル技術を活用した情報収集や分析に注力する大学が多い。
東京工業大学は、そのなかでも先進的にIRを推進してきた。2015年にIR専任部署「情報活用IR室」を設置し、国立大学としては初めて大学の情報活用などに知見を持つ研究者を専任教授として招聘、各種IR活動を進めている。さらに、2016年からは教育改革をスタートさせ、学部・学科の再編などのほか、新たなカリキュラムや教育評価制度を導入してきた。こうした動きのなかで、東京工業大学はIRへの取り組みを加速させていった。
しかし、その一方で、ある要因がボトルネックとなり、同大学のIRを妨げる。それは、IR推進の基盤となるデータベースが整備されていないことだった。情報活用IR室・戦略的経営オフィスの教授である森雅生氏は当時の課題を振り返る。
「ある施策を実施したとして、その効果を測定・評価するためには、課題の明確化とデータ分析が不可欠です。しかし、当時の本学では、教務システムや経理システムなどのシステムが乱立していたほか、申請の多くがメールベースで行われていました。そのため、データが一元化できず、分析を行うための基盤が整っていない状況でした」(森氏)。
データの収集と可視化は、IRにおける要だ。IRをさらに推進するため、東京工業大学では学内のデータを収集し、可視化する仕組みの構築が求められていた。
楽々WorkflowIIとBPMツールを組み合わせ、申請業務の電子化を推進
「やり方のテンプレート化」により、教職員一体となった導入を実現
分析の基盤となるデータベースを構築するため、東京工業大学は教職員の業務の電子化に着手する。そのなかで、従来、メールベースで行っていた申請業務へのシステム導入を計画するが、そこでは大学特有の課題が浮き彫りになったという。情報活用IR室・戦略的経営オフィス特任講師の今井匠太朗氏は語る。
「システム導入を進めるにあたって、申請業務の現状を調査したところ、本学には約500の申請業務が存在し、それらの多くが非常に属人的な形で処理されていることがわかりました。属人的になってしまうのは、大学の組織が、申請業務におけるワークフローを描きづらいためです。教員、職員、学生の間には業務上の上下関係はないので、一般的な企業のように『一般社員→係長→課長→部長』のような縦割りでワークフローを定義できません。そのため、申請業務の全体を把握し、統制するのが困難で、結果として、当事者それぞれが属人的に業務を進めるしかない状況になってしまうのです」(今井氏)。
東京工業大学は、一時、フルスクラッチによるワークフローシステムの開発も検討したが、こうした大学特有の事情が障壁となり導入を断念している。また、複雑に入り乱れたワークフローを現状のまま電子化するだけでは業務効率化の効果は見込めず、IRの本来の目的である「大学経営の効率化」を果たすことができない。そこで、同大学は汎用性の高い、パッケージのワークフローシステムを導入し、申請業務の改善と電子化を同時並行で進めることとした。
このとき、選定されたのが楽々WorkflowIIだった。楽々WorkflowIIを選定した理由として、今井氏は「汎用性の高さ」「導入のしやすさ」「画面作成や経路作成のユーザビリティ」を挙げる。なかでも、特に重視したのは「画面作成や経路作成のユーザビリティ」だった。約500種類にも及ぶ申請業務のすべてを、情報活用IR室のみで電子化することはできない。導入にあたっては、申請業務の処理を担当する職員の協力を仰ぎ、担当者ごとに電子化を進める必要がある。そのため、どの担当者であっても簡単に画面作成や経路作成が行えるユーザビリティは欠かせない要素だった。
さらに、同大学は楽々WorkflowIIに併せて、ユニリタ社のBPMシステム「Ranabase」を同時導入する。Ranabaseで学内全体の業務を整理・可視化し、楽々WorkflowIIの適用範囲を定めたうえで、申請業務の最適化を図るのが狙いだった。
楽々WorkflowIIとRanabaseの導入において、今井氏は、すべての担当者が申請業務の電子化を行えるよう、「電子化のやり方」をテンプレート化・定型化していくことを心がけていたと話す。
「各担当者が、Ranabaseで申請業務の流れや要件を可視化・言語化し、それを参照しながら楽々WorkflowIIで画面作成や経路作成を行うという、申請業務の改善と電子化のやり方をテンプレート化できれば、導入を確実に推し進められると考えました」(今井氏)。
この「やり方のテンプレート化」は功を奏し、東京工業大学は申請業務の電子化を強力に推進していった。さらに、コロナ禍においては、学内全体で業務の電子化に対する機運が一気に高まり、教職員一体となった導入が進められた。
申請業務だけでなく案件管理などあらゆる業務の電子化を目指す
現在、東京工業大学では3つの申請業務が電子化されており、それぞれの申請業務で大きな効果が生まれている。その一つが、安全保障輸出管理に関する申請業務だ。大学や研究機関では、安全保障に関連する技術など国外流出を防ぐため、海外からの人材受け入れに際して身元調査などを実施している。これに関する申請業務を、同大学でも年間600~700件実施していたが、現在ではこれらすべてが電子化されている。
また、教員や職員だけでなく、学生が関与する業務の電子化も行っている。これにより、教員、職員それぞれの業務効率化の実現可能性が増してきており、楽々WorkflowIIの導入効果は全学に波及しつつある。
東京工業大学では、楽々WorkflowIIに蓄積したデータをデータベースへと移行し、IR推進のための分析に活用していく。
さらに、同大学は今回の導入を起点に、データベース構築に向けた新たな取り組みもスタートさせている。
「今回の導入を通して、学内の業務全体が可視化されたことで、申請業務だけでなく、プロジェクトや研究などの案件管理の電子化も重要だと気付かされました。申請業務がプロジェクトや研究におけるスタート地点だとすれば、その後のゴールに至る道のりを可視化するには、案件管理の電子化が必要です。そこで、近ごろ、楽々WorkflowIIの姉妹製品であるエクセル業務効率化支援システム『楽々Webデータベース』の導入を進めています。楽々Webデータベースを活用すれば、プロジェクトや研究の可視化が可能となり、より広い範囲からのデータ収集が期待できます」(今井氏)。
東京工業大学におけるデータベース構築の取り組みは滑り出したばかりだ。しかし、その成果はすでに各所で現れ始めている。
楽々WorkflowIIは「日本企業に親和性が高いシステム」
導入後の継続的な業務改善活動で、意思決定の迅速化も
森氏は、今回の導入を通じて「楽々WorkflowIIは日本の決裁文化にマッチしやすいシステムだと感じた」と話す。
「私自身、研究者として海外で仕事をする際に、海外の研究者から『日本の組織は意思決定が遅い』といわれることがしばしばありました。日本は決裁文化が根強いため、申請業務が複雑化しやすく、そのために大学や企業は意思決定が遅れがちになっているのだと思います。しかし、楽々WorkflowIIを導入すれば、申請書や承認経路が可視化されるため、申請業務の無駄や重複に自然と気付かされます。導入後にも継続的な業務改善を加えられる点が、このシステムの一番の強みではないでしょうか。そうした意味で、楽々WorkflowIIは日本の組織や企業にとって親和性の高いシステムだと感じています」(森氏)。
「VUCA*の時代」とも呼ばれる昨今。様々な変化の波がとめどなく押し寄せるなかで、データを活用した業務改善が求められているのは大学に限らない。業務改善による生産性の向上、そして、その土台となるデータベースの構築を目指す企業や団体は、東京工業大学の事例を参考にしてはいかがだろうか。
*「VUCA」VUCAは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を並べたもの。
VUCA時代とは変動性が高く、不確実で複雑、さらに曖昧さを含んだ社会情勢を示す。
戦略的経営オフィス
教授
森 雅生氏
戦略的経営オフィス
特任講師
今井 匠太朗氏