学校法人東京大学工学部
講義間の関連度を視覚化
目次
東京大学工学部:Webサイト向け検索
東京大学工学部シラバス構造化システム
MIMA Searchの検索エンジンとして採用
- 全文検索エンジンQuickSolutionでの検索結果を分析、視覚化する俯瞰システムを構築
- 学生が自主的に勉学の方向付けを行う「セルフ・オリエンテーション」を実現
シラバス構造化システム構築の狙いと背景
科学技術の著しい進歩とともに学問領域はますます細分化・専門化が進んでおり、東京大学工学部の講義科目数は900を超えるまでに増加している。その結果、学生がシラバス(講義要目)を読んで講義で学ぶべきポイントを適切に理解するということが困難になりつつあり、同じような内容の講義を選択してしまったり、前提として受講しておくべき講義の受講漏れといった問題が実際に発生している。
この問題に対処するため、同校の工学教育推進機構ではシラバスの構造化・視覚化を実現する新しいシラバス構造化システムを構築し、学生が迷ったり焦燥感に駆られることなく、自分の興味を第一義的に考えて自主的に勉学の方向付けを行う、学生自身による「セルフ・オリエンテーション」の支援環境を実現した。
「知の構造化」の概念
新しいシラバス構造化システムは、小宮山宏総長(当時)が提唱する「知の構造化」の概念に基づいている。「知の構造化」とは、過度に細分化された知識領域に対して、領域間の関係を明らかにすることで「領域の深化」と「全体像の把握」を実現しようというもの。シラバス構造化システムは、ある講義を理解するために前提として受講しておかなければならない講義や次に発展できる講義は何かという関係を明示し(「階層化」)、講義間の内容が互いにどこが同じでどこが違うかを明示する(「類似化」)という2つの切り口で講義の関係を整理する。
体系化されてはいるが、広く細分化された工学教育を、学生自らの手で何を学ぶのかを選択するための解析ツールと位置付けられている。
最先端の言語処理を利用したMIMA Search
シラバス構造化システムの中核となるのが、検索ツール「MIMA Search」である。MIMA Searchは美馬秀樹准教授を中心として、東京大学大学院工学系研究科が独自に開発したもので、シラバスに書かれた文章に自然言語解析の手法を適用することにより、その講義がどんなテーマを扱っているか、他の講義との類似度はどうかを複合的に分析するとともに、解析結果は直感的に理解しやすいように視覚化する。
MIMA Searchは、最先端の言語処理を利用した知識の分析と視覚化が大きな特長であり、次の5つの要素で構成される。
- テキスト分析(膨大なテキスト群から重要な用語を自動抽出)
- 自動分類(意味が同じ、もしくは類似した用語を自動的に分類してデータベース化)
- 情報検索(データベースからの検索)
- 知識分析(用語の類似度から知識間の類似度を計算)
- 視覚化(類似した意味を持つ知識を集めて階層化)
検索対象データからの「テキスト分析」および「自動分類」により、オントロジーと呼ばれる分類されたデータベースを自動的に構築する。
このオントロジーから「情報検索」した結果を活用することで「知識分析」を高速かつ高精度に行うことができる。さらに「視覚化」により、分析した結果をグラフィカルにマップ表示し、関連する知識全体の横断的俯瞰が可能となる。
検索エンジンとしてQuickSolutionを採用
このうち「情報検索」では、検索キーワードに一致したシラバスを単純に検索するだけでなく、キーワードに類似するシラバスを類似度とともに出力する機能や、逆にシラバスの中に含まれるキーワードを自動抽出して検索のヒントを与える機能が求められる。さらに、大量のデータから高速に検索できる性能や、将来的なシステム拡張にも対応可能なスケーラビリティ、MIMA Searchからフレキシブルに利用するためのAPIの充実など、多様でハイレベルな機能・性能が要求され、これらを満たす検索エンジンとして、住友電工情報システムの全文検索エンジンQuickSolutionが採用され、MIMA Searchの中に組み込まれている。
またMIMA Searchの大きな特長のひとつである「視覚化」では、シラバスは画面上の点で、シラバス間の関連性は画面上の線で表示され、自然言語解析の結果に基づいて2つのシラバス間の意味的な関連性が強ければ強いほどそのシラバスを示す点は近くに配置され、これにより自分が知らない領域であっても内容的に近い講義の集合を見つけることができるほか、基礎的な講義とその応用講義といったような履修の順序を直感的に把握することもできる。
従来のシラバス検索ではインターネットの検索サイトと同様に、入力したキーワードが含まれているシラバスを探すことにとどまっていたが、MIMASearchにより内容の意味的関連性に基づいて検索結果を視覚化することができるため、必要な情報に、ピンポイントでより速く到達することができる。
このほか、学科別やトピック別にグルーピング表示させたり、特定のシラバスを中心に再表示させたりするなど、多彩な機能がある。
幅広い分野への応用に期待
工学部シラバス構造化システムは2006年4月に稼動し、学生は工学部と工学系研究科の膨大な講義の中から多様な切り口で検索しながら履修科目を選択できるようになった。今後は、単なる履修申請ではなく、学生自らが履修の方向付けを行うセルフ・オリエンテーションへの活用を進める、全学部4000科目への拡大も検討されている。また2005年度からスタートした東大オープンコースウェア(OCW)のシラバス構造化システムにも応用され、東京大学から一般に開放されているシラバス、さらにMIT(マサチューセッツ工科大学)の一般公開シラバスについてもインターネット上で検索して講義ノートや教材を閲覧できるサービスが既に公開されている。
また単にシラバスを検索するだけでなく、MIMA
Searchの機能を活用して特定の学問分野の用語集とシラバスをマッチングさせ、本来講義科目としてあるべきものが抜けていないかをチェックすることで講義の拡充にも活用できる。このほかにもMIMA
Searchの応用として、企業内に存在する膨大な文書から知識のマイニングを行なう次世代の知識管理、さらにはナノマテリアル分野やバイオ分野における特許分析、技術マップ作成、知識発見支援等、産業応用を視野に入れた研究開発も進んでいる。
MIMA
Searchは、広い視点、上位の視点から知識の構造を俯瞰しながら必要な情報へのピンポイントでのアクセスを可能にする次世代の検索ツールとして幅広い分野での応用が期待されている。その情報検索エンジンとして組み込まれているQuickSolutionについても類似検索や高速大容量検索という機能面、性能面での特長を活かしてMIMA
Searchの適用推進に寄与していく。