タツタ電線株式会社

タツタ電線株式会社

大規模基幹システムのダウンサイジング

929機能からなる大規模基幹業務システムを
Webシステムにダウンサイジング

決算日程短縮、リース費・保守費の75%削減など大幅な効果を短期間で実現

効果重視でWebシステムへの再構築を決断

ハードウェアは保守期間が切れる前に後継機に更新する ・・・ 確かに従来はそうやってきたが、今回もそれでいいのか?

タツタ電線の社内で熱い議論が始まったのは、2003年早々のことだった。メインフレームの本体、周辺機器などが順次保守期間満了となる予定で、最初に保守切れとなるのはコンソール卓の2004年10月。残された期間が2年足らずという時期にあえて議論を開始した理由について、情報システム部スペシャルスタッフの寺田氏は「共販会社の設立など事業環境は大きく変化し、システムでの対応が困難になりつつあった。また保守維持要員を常時4人必要とする体制もコスト面や迅速性の点から見直したかった。」と語る。

システムの更新案として(1)ハードウェアのみ後継機種に更新、(2)コンバージョン・ツールを使用してUNIXシステムに移行、(3)ERPパッケージの導入、(4)アプリケーションの全面再構築、の4案を比較検討した。このうち、(1)(2)では保守切れという当面の問題は回避できるが、帳票出力・配信に現状通り4名の要員が必要であり、運用コスト削減や処理時間短縮の抜本的対策にはならない。また(3)のERPについては、電線特有の銅価格ベース原価構造への対応に大幅な改造が必要になるなど、メリットが少ない。詳細な検討の結果、開発コストと運用コストのバランスよく抑制しつつ、次代を担う若手メンバーに自信をもって維持発展を託すことができるよう、Web技術を使用したシステムを再構築する(4)案に決定した。

システム構成図
システム構成図

課題解決と現状踏襲のバランスによる要件定義

再構築プロジェクトは2003年4月にスタートし、すぐに要件定義に着手した。といってもタツタ電線の基幹システムは、長年にわたりメインフレーム上で積み上げられてきたシステムだけに膨大な規模である。標準原価計算、見積設計、売掛金、入出金、銅ベースの原料・購買、受注~出荷、営業物流などのオンライン処理と、顧客とのEDI(電子データ交換)、損益管理、財務管理、棚卸資産、経費管理、リース評価、仕掛り管理などのバッチ処理をあわせ、機能数は1,145にのぼる。

要件定義においては、再構築の狙いである事業環境の変化への対応、運用コスト削減、処理迅速化を最重点に取り組むこととした。特にオペレータが介在して帳票を印刷し、その帳票により情報伝達を行うというコスト、スピード両面での問題をなくすため、ペーパレスを推進して運用コスト削減と業務のスピードアップを目指した。

一方で画面まわりについては、要件定義を効率よく、しかも確実に進めるため、長年使い慣れたユーザの声を尊重して現状踏襲型の要求も受け入れた。最終的に機能数は約2割削減しながらも総数929にのぼる規模に達したが、予定通り6か月間で要件定義を完了させることができた。

寺田 均 氏
タツタ電線株式会社
情報システム部長
寺田 均 氏

Webシステム開発ツールとして楽々FrameworkIIを選択

開発チームでは、要件定義と並行して開発環境、開発技術の選択を急いだ。大規模基幹システムを短期間で開発するといっても、なにしろWebシステムの開発経験がない。3種類の開発ツールを比較検討し、同じ新日鉱HDグループのセントラルコンピュータサービス(CCS)にも意見を求めた。今回の再構築プロジェクトを共同で進めるCCSはWebシステム開発の経験が豊富であり、複数の開発ツールの使用経験があったためである。

最終的にはCCSでの実績を参考にして住友電工情報システムの楽々FrameworkIIを使用することに決定した。決め手となったのは、「データベース設計ができればプログラムを自動生成してくれるところで、これはWebシステム開発経験がないメンバーには大きな魅力だった」と情報システム部の中矢氏は語る。また、ペーパレスによる運用コスト削減を目指す中で、簡単に電子帳票が作成できる帳票設計ツールSVF(*1)と連携できる点も評価された。

*1:ウイングアークテクノロジーズ社製のツール
中矢 整 氏
タツタ電線株式会社
情報システム部スタッフ
中矢 整 氏

コーディング着手当初は手間取る

本格的に実装段階に入る12月に、開発メンバーは住友電工情報システムによるプログラマ向け講習会を受講して楽々FrameworkIIの基本的な技術を習得した。正直なところ、それまで楽々FrameworkIIについて知っていたことは、データ中心設計を行うことや、自動生成機能を補うためにプラグインとしてJava言語でのコーディングが必要であることくらいだった。開発チームでは講習会受講後の2004年1月より早速プログラム開発に着手したものの、当初は手間取った。

例えば、データベース定義情報の入力について、現在では複数の上流設計ツールと連携してER図を描けばデータベース作成まで連続してできるようになっているが、当時はその連携機能がなかったため、定義情報をすべて入力する必要があり、約1週間をその作業に費やした。また、XPDの編集による画面設計がわかりにくく苦労した部分もあったが、この点については最新バージョンでは新ツールRakDesignerの登場によって直感的な操作で画面設計ができるようになり、使い勝手が向上することが期待されている。

序盤以降は期待通りの生産性を発揮

しかし着手直後は手間取ったものの、2月に入り、開発メンバーが楽々FrameworkIIの特長を理解し、また習熟度が深まるにつれて、開発生産性は確実に高まっていった。特にデータベース設計をしっかりやっておくことで、参照系の機能については適合するプログラムパターンがあれば1機能あたり1時間程度で実装することができた。この効果をより一層引き出すため、中矢氏は「さらに小回りのきくプログラムパターンの追加を今後も継続してほしい」と要望する。

また、コードからの入力処理では自動的に参照ボタンが表示されて日本語名称を簡単に呼び出せるため、画面の操作性も自動的に向上した。さらに、画面レイアウトを変更する必要が生じた場合でも、Javaを知らなくてもテキストエディタでXPD(XML形式のプログラム定義ファイル)を修正することで対応できた。こうして画面系機能については2月からの6か月で8割が完成し、最終的に計画通り10月稼動に間に合わせることができた。しかし、データ取得によるHTML生成の省略化、項目属性の一元管理、JavaScriptの自動生成、豊富なライブラリなど、楽々FrameworkIIによる恩恵は享受でき、十分なメリットがあった。

帳票削減は予想を超える波及効果

一方、悩んだのは画面遷移だった。メインフレームのシステムでは画面データをバッファに保管することで画面遷移が自由に作ることができるため、入力されたデータの内容により画面を切り替える処理が多用されていた。しかし、これらの画面遷移の中には、汎用化・標準化された楽々FrameworkIIのプログラムパターンにあてはまらないものも多かった。そこで、ユーザ要望を最優先としつつも工数を削減できるよう、なるべくプログラムパターンを活用できるような形でJavaコーディングを行った。

この作業には開発リソースを集中的に費やす結果となったため、帳票関連の開発に遅れが発生する懸念が浮上してきた。そこでプロジェクトチームは10月稼動を死守するため、帳票作成を大幅に割愛するという大胆な策に出た。

開発日程
開発日程

定型の財務帳票についてはSVFを活用してPDFファイルを作成する処理を実装するが、一方で営業部門での非定型帳票265種類は開発対象から外したのだ。その代わりに多次元の集計・レポーティングツールDr_SUM(*2)を導入し、部門ごとの管理方針に沿ってドリルダウン・集計を行うよう、各部門に任せた。この策が奏功して帳票は大幅に削減され、単に開発期間を短縮しただけでなく、ペーパレスを一挙に推進することとなり、また各部門においては分析・集計がフレキシブルに行えるという新たなメリットも生まれた。

*2:ウイングアークテクノロジーズ社製のツール

ペーパレスを中心に期待以上の成果

最終的には総工数330人月をかけて767画面、212帳票を開発するという大規模な開発となり、一部機能は時期をずらしての稼動となったものの、2004年10月のハード保守切れというデッドラインを死守して稼動させることができた。

しかも、「想定していた効果はほぼ達成することができた。」と寺田氏は語る。「帳票の電子化により、これまで6時間かけて処理→仕分け→配布していた帳票関連の作業がなくなったことなどから、決算日程を2日短縮することができた。

全体として、環境の変化に迅速に対応できる機動的なシステムに仕上げることができた。」

コスト面では、ダウンサイジングにより、リース・レンタル・保守料は実支払ベースで1/4にまで大幅に削減できた。維持保守要員についても、再構築前の4名から2.5人に削減できており、まもなく1人体制にまで進められる見込みである。

予想以上の効果が得られたのがペーパレスだった。情報システム部のオペレータが介在する帳票出力については全廃。各部門ではPDFファイルやDr_SUMから帳票を出力しているが、登録申請や配付帳票の保管・ファイリングなどといったムダがなくなった。何よりも、各部門がそれぞれのニーズにあった情報を随時引き出せる仕組みができたため、各部門の機動力が大幅に向上した。

さらなる活用に向けて

情報システム部では、さらなる効果を引き出すために、

  • 利用部門でのデータ有効利用のさらなる促進
  • グループ会社へのシステムの展開
  • システム運用の無人化

を現在推進している。

また開発面では、楽々FrameworkIIの最新バージョンで提供される新たな表示部品や画面設計ツールRakDesignerを、総務システムなどの新規開発に順次適用する予定であり、操作性に優れたシステムがより短い期間で開発できるものと期待されている。

このように、事業環境の変化に迅速に対応できる低コストの戦略的システムとして稼動した新基幹システムは、利用部門や情報システム部など関係者の熱意と努力により、現在も成長・発展を続けている。

※本事例中に記載の社名や肩書き、数値、固有名詞等は取材時点の情報です。

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