一般財団法人日本品質保証機構
組織全体の効率化を推進
目次
ISO/IEC 17025認定拡大に伴い煩雑化した紙による文書管理をデジタル化
楽々Framework3で開発したシステムが組織全体の効率化を推進
公正な第三者機関としてマネジメントシステムや製品などの認証・試験・検査等を実施する一般財団法人日本品質保証機構(以下、JQA)は、校正機関に適用される規格「ISO/IEC 17025」を取得して以来、増大し続ける業務負担の軽減などを目的にローコード開発基盤の楽々Framework3を導入。文書管理システムや管理者管理システムなどを内製で構築し、姉妹製品である楽々WorkflowIIとの連携も実施。これにより、JQAでは承認・改訂作業などのデジタル化を実現し、適切かつ効率的な文書管理の体制を築けた。
ISO/IEC 17025認定の維持・拡大に必要な管理業務が煩雑化
紙の管理が事業拡大のボトルネックに
JQAはマネジメントシステム、製品、環境等に関する認証・試験・検査を通じて、公平・中立な立場で第三者適合評価を行う機関だ。例えば、JQAの計量計測部門では、長さ、質量、温度、音響、濃度など、試験や検査に用いられる多種多様な計測器を校正し、国で定められた計量標準と産業界を結ぶ役割を果たしている。
この業務を担うため、JQAが認定を取得しているのがISO/IEC17025だ。ISO/IEC 17025は「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」のことであり、校正証明書の国際的な信頼性を担保するうえで極めて重要な規格だ。
一方で、ISO/IEC 17025の認定維持および運用には多くの工数を要する。認定を取得するには、文書管理や購買管理、ソフトウェア管理、苦情不適合管理など、実に数多くの仕組みを構築しなければならない。JQAではかつて、これらの構築した仕組みの管理に多大な労力を費やしており、組織運営上の課題となっていた。その状況について、計量計測部門計画室IT推進グループの長谷川清孝氏は次のように説明する。
「以前は、ISO/IEC 17025で求められる管理を、すべて紙で行っていたことから、組織全体で多大な業務負担が発生していました。紙に記録するため、記入ミスがたびたび発生し、その是正には多くの手間が費やされていました。また、記録内容の承認は承認権者が押印する形で行っていたため、回付や拠点間の送付にも多くの手間と時間が必要でした。昨今、検査不正の社会問題化などが要因となり、当法人への引き合いは急速に増えつつあります。こうしたなかで、ISO/IEC 17025にまつわる管理業務のデジタル化が求められるようになりました」(長谷川氏)。
しかし、JQAの前には大きな課題が待ち構えていた。ISO/IEC17025規格には試験所や校正機関に適用される専門性の高い要求事項が数多く含まれている。そのため、その管理業務に精通するシステム開発業者はそれほど多くなく、外部企業に開発を委託する場合には、はじめに業務の内容や認証規格の説明をしっかりと行わなければならない。それでも完全な理解は難しいため、システム化に向けた要件定義フェーズなどで多大な時間と工数が必要となることが予想された。こうしたなかで、JQAは内製によるシステム開発を模索しはじめる。
Javaの開発経験がなくても利用可能な楽々Framework3を選定
充実のサポートコンテンツがシステム開発を強力に後押し
内製でのシステム開発を目指し、JQAは開発基盤の選定を行った。開発基盤の導入とシステム開発を担当するのは長谷川氏である。長谷川氏はVisual Basicでのシステム開発経験はあったが、JavaやSQLの経験が少なかったため、高度なプログラミングスキルを有していなくても利用できるツールが求められた。
そのなかで選定されたのが、ローコード開発基盤の楽々Framework3だった。楽々Framework3は、部品を組み合わせることでWebシステムを開発できることが評価された。また、JQAはすでに姉妹製品である楽々WorkflowIIを導入しており、両者の連携によりさらなる業務効率化も見込まれた。これらの理由から、JQAは楽々Framework3の導入を決定し、2022年5月からシステム開発に着手する。
システム開発の過程を振り返り、長谷川氏は「充実したサポート体制が開発を強力に後押ししてくれました」と語る。
「まずはeラーニングで基本的な操作を学び、その後外部のサービスでJavaやSQLなどの基礎を習得した後に、ハンズオンの開発講習会に参加しました。開発講習会は3日間のプログラムなのですが、受講者1人1台の開発端末を使用して、みっちり学ぶことができました。とはいえ、それだけで楽々Framework3を縦横無尽に扱えるわけではなく、開発の過程でつまずくことも多々ありました。その都度、サポートサイトを利用し、Webでの問い合わせを交えながら問題を解決していきました。一つ目のシステムをリリースするまでの問い合わせ件数は約50件に上ります。これほど多くの問い合わせに迅速かつ誠実に対応してくれたことが、サポート体制の充実をもの語っています」(長谷川氏)。
2023年3月、JQAは楽々Framework3で開発した最初のシステムである「品質管理システム Qualia」をリリース。さらに、その後も開発を続け、管理業務のデジタル化を着実に進めていった。
管理システムを複数開発し、紙の運用を大幅に削減
サポートサイトを活用し、効率化を促進する機能を多数実装
現在、JQAはISO/IEC 17025の認定に必要な管理業務の多くを、楽々Framework3で開発したWebシステムで行っている。これにより、従来の紙での運用は大幅に縮小され、組織全体で業務効率化が進んでいる。
その一例が、文書管理システムだ。楽々Framework3で開発した文書管理システムに各種文書を一元化し、最新版管理や承認履歴、変更履歴などの機能で規格の要求に応じた管理を行っている。これにより、紙が不要になったほか、承認業務や改訂作業の手間が大幅に削減された。さらに、細やかな機能の開発により、業務上の課題解決も図っている。その詳細を長谷川氏は説明する。
「ISO/IEC 17025には『業務中には常にマニュアルが閲覧可能な状態であること』という要求事項があります。そのため、私たちはPCを脇に置いて手順書などを閲覧できる状態で校正作業を行うのですが、顧客先に出張して校正作業を行う際には、ネットワークやセキュリティの関係上、文書管理システムでマニュアルを閲覧できない可能性があります。そのため、全文書をPCに一括ダウンロードできる機能を追加しました。この機能はサポートサイトからサンプルコードを提供してもらい、それをもとに生成AIで複数のファイルをzipでまとめる手法を導き出して実装しました。これにより、顧客先でも規格に定められた業務品質を保ちながら作業をすることが可能になっています」(長谷川氏)。
こうした工夫は、他のシステムにも施されている。例えば、各業務の管理者を一覧化している「管理者管理システム」では、楽々WorkflowIIと連携し、管理者変更などの申請を行う際に承認経路が自動選択される仕組みを構築している。この仕組みもサポートサイトから共有した実装例をもとに構築されたものだ。JQAではサポートコ ンテンツから得た知見をもとに、さまざまな機能が実装されている。
「プログラミングスキル」よりも「実務への理解」が重要
内製の強みを活かし、今後はシステム開発をさらに加速させる
このほか、JQAは顧客からの苦情などを管理する「苦情不適合管理システム」や、開発に関するハウツーをまとめた「楽々Framework関連逆引き辞書」を楽々Framework3で構築し、管理業務のデジタル化を推進している。
最後に、導入のポイントとして、長谷川氏は「実務の知識が開発の武器になりました」と話した。
「JavaやSQLなどの知識は確かに必要なのですが、サポートサイトや生成AIで十分補えます。それよりも業務をいかに理解しているかが今回のポイントでした。業務を理解しているからこそ、細やかな効率化の仕組みを作れましたし、ユーザのニーズをシステムに反映することができました。そのため、内製でのシステム開発を目指している企業には、業務知識に精通した人物に開発を担ってもらうのがよいと思います」(長谷川氏)。
今後、JQAは楽々Framework3による開発をさらに加速する方針だ。日本の産業界の縁の下の力持ちであるJQAの業務を楽々Framework3の機能と充実したサポート体制が支えていた。
計量計測部門
計画室 IT推進グループ
長谷川 清孝 氏