働き方改革の現状と今後の課題
近年では、長時間労働などの労働環境が問題視されること多いです。このことに対応すべきと考えた政府は、民間企業に働きかけて「働き方改革」を推進しています。
今回は、この働き方改革の現状と課題についてご紹介いたします。
働き方改革が始まったきっかけ
働き方改革とは、安倍首相が提唱した「一億総活躍社会の実現」を推進するための施策として行われている改革のことです。
首相官邸のホームページによると、一億総活躍社会とは、日本の長年続く少子高齢化社会の是正を行うべく掲げられた「新・三本の矢(希望を生み出す強い経済・夢をつむぐ子育て支援・安心につながる社会保障)」[参照:首相官邸-一億総活躍社会の実現]の実現を目的としたものです。
15歳から64歳までの労働人口が、平成30年7月と前年同月との比較により年間53万人ほど減少しているという実態もあります。
参照:総務省統計局-人口推計労働人口の減少による経済の衰退化への懸念や長時間労働の常態化による過労死などが問題視される中、改革すべきことが多々挙げられたことにより「働き方改革」が始まりました。
※監修者コメント
「一億総活躍社会」というのは、多様な働き方を可能にすることで働き手を増やし、人口減に伴う労働力不足という国としての課題を解消していくための政策です。これに関して、「働き手を増やす」、「出生率の上昇」、「労働生産性の向上」という3つのスローガンが掲げられたのですが、これらを実現するためには「働き方の見直し」が必要不可欠であるという認識のもとで「働き方改革」という言葉が生み出されました。
働き方改革の実施で変わったこと
働き方改革が世の中で広まる中、労働に関するさまざまな課題の改善につながる法律や仕組みが整えられてきています。
仕組みの例として、厚生労働省のページ上でも取り上げられている「IT業界における働き方のトレンド」があります。IT業界では、ワーク・ライフ・バランスを実現することによるES(従業員満足度)向上を目標に定め、業界団体が中心となって取り組みを進めています。
具体的にはテレワークや副業、兼業、フリーランスなど個々のライフスタイルに合った働き方の実現への取り組みなどです。そうすることで、IT業界で働く人たちの活躍の場も広がります。
例えば、現在の職場で力を持て余していた人材が、副業先で本来の力を発揮することができるようになることです。
近年は多様性が求められる世の中に変化してきており、働き方に関しても従来と比べて確実に変化しています。
※監修者コメント
世の中全体に「働き方改革」が広まったことで、「労働生産性の向上」を意識する企業が増えました。「労働生産性の向上」につながる多様な働き方を促すための対策として、テレワークや副業、フリーランスの活用などが行われています。
働き方改革の現状
働き方改革は、労働者の働き方を前向きに変えるための素晴らしい取り組みなのですが、実際の企業への浸透具合は、どのようになっているのでしょうか。企業の規模によって結果は異なりますが、大手企業の多くは働き方改革の推進に前向きな姿勢を示しています。これに対して、中小企業の働き方改革の取り組みはどのようになっているのかをご紹介します。
アメリカン・エキスプレス・インターナショナルが2017年に日本の中堅企業321社に対して実施した調査によると、54%の企業が働き方改革に取り組んでいるという結果が得られました。数値をみると半数以上が取り組んでいることになります。
反面、回答企業の46%が人員不足や古くからある体制からの脱却ができないなどの理由で働き方改革への取り組みを進められていないという実態があることも事実です。世の中全体が確実に変化していることは間違いないことなのですが、働き方改革が浸透しきれていないのが現状だと言うこともできます。
※監修者コメント
「働き方改革」の一丁目一番地となるものが“長時間労働を前提とした働き方”からの脱却です。そのことを実現していくためには、「従業員の意識改革」と「業務の仕組みの見直し」という両輪での取り組みが必要となります。
働き方改革の今後の課題
働き方改革に関する「長時間労働の是正」と「雇用形態による格差」という2つの大きな課題の内容についてご紹介します。
1.長時間労働の是正
長時間労働と直結している数値は労働生産性です。この数値に関して日本は、主要先進7カ国のなかで最下位に位置しており、有給休暇の消化率に関しては世界主要30か国の中で2年連続世界最下位という不名誉な称号まであります。
参照:【世界30ヶ国 有給休暇・国際比較調査2017】日本の有休消化率、2年連続 世界最下位 - We Love Expedia勤務時間も長いうえに有給休暇も満足に取れないことは、働き方改革を進めていくうえで大きな課題であるため、速やかに解決しなければならない問題です。「ノー残業デー」や「プレミアムフライデー」などの制度を導入し対応している企業も存在しますが、多くの企業では具体的な対応が取られていません。
東洋経済新報社が紹介した働き方改革の進捗状況についての記事の中に、3682社を対象とした調査によって56%の企業から残業時間が減少しているという回答が得られたというものがありました。
参照:東洋経済新報社しかし44%の企業において残業時間に変化が見られない、あるいは、増加していることも事実であるため、具体的な対応を行いながら残業時間を減らしていく必要があります。
2.雇用形態による格差
働き方改革が生まれる前から問題視されてきた、正規雇用と非正規雇用間での待遇格差も課題として挙がります。
同じ業種・職種であっても、非正規雇用者は正規雇用者の6割程度の金額の給与しか支給されない、非正規雇用者には賞与が支給されない、などといった雇用形態による格差が生じているのは珍しいことではありません。非正規雇用者の方が正規雇用者よりも負担の大きな仕事をあてがわれているケースもあり、格差は賃金だけに留まっていません。
これらの問題を解決すべく、政府は、働き方改革の枠組みの中で「同一労働同一賃金」というスローガンを掲げ、労働格差の是正を進めながら課題の解決に取り組んでいます。
参照:『「同一労働同一賃金」の目的は格差是正ではない』日経ビジネス2017年3月6日日本政府は、70年ぶりとも言える労働基準法の大改革に踏みきり、ご紹介した課題の解決や過労死などの問題などの解決を目指して政策を進めています。
※監修者コメント
労働基準法の改正を柱とした「働き方改革関連法」が成立し、2019年4月から順次施行が開始されます。しかし、「働き方改革」の本質は、働くことのルールの見直しにあるのではなく、労働力人口が減少しても経済が成長していける世の中を実現するために効率の良い働き方をすることにあります。よって「働き方改革」に取り組む企業は、長期的な視点での対応を進めていくことが必要です。
まとめ
今回は、働き方改革の現状と課題についてご紹介しました。働き方改革に関しては、自分の勤めている企業では実施されているのか、程度を越えた働き方をさせられていないかなど、確認するべきことが多くあります。ご紹介した内容を踏まえて、自分に合った働き方を目指していきましょう。
監修:大庭経営労務相談所 所長 大庭真一郎(経営コンサルタント)
東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。中小企業診断士、社会保険労務士。