リモートワークとテレワークとの違い
導入のメリット・デメリットや事例を解説
2020年から2021年にかけて、オフィスに出勤せずに働くリモートワークが普及してきました。しかしリモートワークと似た言葉にテレワークやノマドワークなどもあり、混乱する方も多いのではないでしょうか。
当記事ではリモートワークの概要やテレワーク・その他類似用語との違い、リモートワーク導入のメリット・デメリット、導入の際の注意点、導入事例を解説します。
目次
リモートワークとはオフィス以外の場所で働くこと
リモートワークとは、簡単にいえば「オフィス以外の場所で働くこと」を意味します。「Remote(遠隔の、かけ離れたなど)」と「Work(仕事、ワークなど)」をつなげた造語です。
とはいえ、明確な定義は存在しません。リモートワークの中にはさまざまな意味が含まれています。
- 家で出勤せずに仕事をすること
- コワーキングスペースやレンタルスペース、カフェなどオフィス以外の場所で働くこと
- サテライトオフィス(企業や本拠地から離れた場所に設置した小規模オフィス)に出勤する など
「〇〇に行って働く」や「△△を使う」などの条件もなく、非常に広い意味で使われています。
リモートワークとテレワークの違い|ノマドやSOHOなどの意味
テレワークとリモートワークはほとんど違いがなく、同じ意味で使われます。ビジネスシーンや相手の状況、使い方に合わせるのが一般的です。違いとしては以下が挙げられます。
- テレワークは情報通信技術の使用が条件だが、リモートワークは使用を問わない
- テレワークは会社員に対してよく使われるが、リモートワークはフリーランスにも使われる
テレワークは、総務省や厚生労働省、一般社団法人日本テレワーク協会などで正式に使われる言葉です。国の出版物やWebページなどではテレワーク表記で統一されています。
総務省はテレワークを、「ICT(情報通信技術)」を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義しています。「Tele(離れたところ)」と「Work」をあわせた造語です。1980年代にアメリカで浸透し始め、日本では日本電気株式会社(NEC)が最初に導入したといわれています。
雇用型テレワークの種類 | 概要 |
---|---|
在宅勤務 | 自宅を就業場所とする働き方 |
モバイルワーク | 施設や時間に依存せず、通勤時間や待ち時間などでの仕事を可能とする働き方。 |
施設利用型勤務 | サテライトオフィス、テレワークセンター、スポットオフィスなどを就業場所とする働き方 |
SOHO | 専業性と独立性の高い仕事 |
内職副業型勤務 | 代理が立てやすくかつ独立性の低い仕事 |
さらに以下では、リモートワークとよく混同される言葉について解説します。
在宅ワーク(在宅勤務)
在宅ワークとは、自宅での仕事に限定した働き方のことです。会社からの指示や従業員の希望で働いているケースと、自宅兼事務所で業務委託・請負契約の仕事をこなすケースのどちらも該当します。
また仕事内容もパソコン仕事やICT利用などの条件はなく、イラスト作成やハンドメイドなど多種多様な仕事が該当します。
ノマドワーク
ノマドワークとは、英語で遊牧民を意味するNomadを語源とする、オフィスに依存しない働き方です。リモートワークよりも、「好きなときに好きな場所で働く」にフォーカスした意味で使われます。
就業場所もコワーキングスペースやカフェのイメージです。会社員よりも、個人事業主・フリーランスを対象にした言葉といえます。
SOHO(ソーホー)
SOHO(ソーホー)とは、Small Office Home Office(スモールオフィス・ホームオフィス)の略語です。小さなオフィスや自宅を就業場所とし、専業性・独立性が高い仕事をこなす働き方を意味します。
SOHOもノマドワークと同じく、個人事業主・フリーランスの働き方として浸透しました。
似たような言葉にHOHO(His Office Her Office)があります。HOHOは定年したり子育てが一段落したりした夫婦が、小オフィスや自宅での仕事で収入を得ることです。
ハイブリッドワーク
ハイブリッドワークとは、リモートワークとオフィスワーク(出勤すること)を組み合わせた、新しい働き方のことです。企業の状況や従業員の希望に応じて、在宅と出勤を柔軟に使い分けます。
「地元で働くこと」や「Uターン(地元から都会に働きに出た人が地元へ就職すること)やIターン(元々都会住みの人が地方へ働きにいくこと)の促進」など、東京一極集中を解消する働き方として注目されています。
リモートワークを導入するメリット
リモートワークには企業側と従業員側のどちらにもメリットがあると、行政官庁や大手企業などが行うさまざまな調査から明らかになっています。リモートワークのメリットを、企業と従業員の2つの視点から解説します。
企業側のメリット
企業側のリモートワーク導入のメリットは次のとおりです。
- 事業継続性の確保(BCP対策)になる
- 優秀な人材の確保・流出の防止につながる
- 業務の見直しでDXの推進が進められる
- 交通費やオフィスの賃料などのコスト削減につながる
事業継続性の確保(BCP対策)になる
事業継続計画(BCP)とは、突然の災害やテロ、コンピュータウイルスなど事業の継続を困難にする不足の事態に対し、被害の最小限化や早期復旧につなげるための行動や対応をまとめたものです。
リモートワークだと、もし公共交通機関の停止やオフィスに入れない状況になっても、在宅で業務を進められます。またクラウド環境にデータを保存しておくことで、オフィスが機能停止したときの備えにもなります。
総務省の「令和2年通信利用動向調査(以下、総務省の調査)」や東京商工会議所の「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査 9月13日(以下、東商の調査)」でも、テレワークを導入する・継続する目的に事業継続性の確保を挙げる企業が過半数でした。
優秀な人材の確保・流出の防止になる
リモートワークによってワークライフバランスが保たれる働き方は、現代の就活生・転職希望者からの需要が高まっています。同時に、就業地への引っ越しが難しい遠隔の人材の確保も可能です。
また出産や育児、介護などが原因で退職を考える人に対し、時短勤務や隔日での出勤、復職などを提案しやすくなります。離職率の改善も期待できるでしょう。
業務の見直しでDXの推進が進められる
リモートワークを行うには、資料の電子化やシステムでの管理などITツールの導入が必須です。そのため、これまでの業務を大幅に見直すきっかけになります。
- 書類の電子化によるペーパーレス化
- 捺印の廃止・電子契約の導入
- クラウドツールでのデータ保存
- 大規模な業務プロセス・労務管理システム導入
- 従業員のITリテラシーに関する教育 など
経営陣・従業員ともにデジタル技術に触れることで、DX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル技術の導入でよい方向へ変革すること)への意識が高まる点もメリットといえるでしょう。
交通費やオフィスの賃料などのコスト削減につながる
リモートワークは、経営活動にかかるランニングコストが削減できます。削減できるコストは次のとおりです。
- 社員に支払う交通費
- オフィスの賃貸料
- 設備のレンタル費
- 紙やその他の消耗品にかかる費用
- オフィスの水道光熱費や印刷代
「オフィス不要論」や「脱オフィス」を掲げ、オフィスの移転や縮小、売却によって経費削減を狙うITベンチャー企業も増えてきました。
従業員側のメリット
リモートワークの実施は、従業員側にもさまざまなメリットがあります。
- 通勤時間が減りプライベートや育児・介護に使える
- 自分が働きやすい環境を選べる
- 自分だけの作業に集中しやすい
通勤時間が減りプライベートや育児・介護に使える
リモートワークによって、通勤や準備にかかる時間や身体への負荷を削減できる点は大きなメリットです。ゆとりが持てる分、プライベートや自己研鑽などに当てることが可能です。例として以下のものが挙げられます。
- 家族との時間
- 趣味
- 資格学習・スキル習得
- 睡眠時間
- 育児・介護
- 副業(複業)や資産運用 など
ストレスの軽減によって、本業の生産効率や本人の体調面でもプラス効果が期待できます。
東京都が実施した「多様な働き方に関する実態調査」によると、通勤時間や移動時間の削減について、従業員数に関係なく、80~90%の企業が「効果があった」と回答しています。
育児中の従業員への対応に関しては60%以上が効果ありと答えています。
自分が働きやすい環境を選べる
リモートワークは、働きやすい環境を自由に選びやすくなります。たとえば雑多なオフィスや現場で働くことを苦手とする人でも、静かな自宅やカフェなら生産効率を高められるでしょう。ケース次第では、旅行先で仕事する「ワーケーション」も可能です。
また稼働する時間帯や休憩タイミングの融通が聞く点もメリットといえます。
ただし従業員がリモートワーク先での情報漏えいやデータ破損を起こさないよう、ルール化や管理体制の整備が必要です。
自分の業務にだけ集中しやすい
リモートワークは原則として一人もしくは少人数で仕事します。業務途中の不用意な雑談や雑用によって集中力が途切れる心配がない点はメリットです。
とくに自分1人で進められるコーディングやデザイン、資料作成などの作業とリモートワークの相性はよいといえます。
リモートワークを導入するデメリット
働き方が大きく変わるリモートワークは、オフィスワークにはないデメリットも存在します。企業側と従業員側のデメリットをみていきましょう。
企業側のデメリット
企業側のデメリットは次のとおりです。
- セキュリティとコンプライアンス面のリスクが出る
- プロジェクト・タスク管理や労務管理が難しくなる
- 業務フローやその他制度の変更が必要になる
セキュリティとコンプライアンス面のリスクが出る
リモートワークではパソコンやUSBなどの端末・記憶媒体をオフィス外で取り扱います。紛失や盗難のリスクが高まる点がデメリットです。セキュリティ対策が甘くなることから、リモートワーク中のハッキングやマルウェアの被害も増加傾向にあります。
情報漏えいは、個人情報の流出や企業への脅迫、サイバー攻撃などの危険につながります。コンプライアンス違反で、取引先や顧客、株主からの評価も失墜するでしょう。
実際に東商の調査では、2021年中のテレワーク実施の課題として、情報セキュリティ面を挙げる企業が一番多いと結果が出ています。
プロジェクト・タスクの進捗や労務管理が難しくなる
リモートワーク中は従業員一人ひとりのタスクの進捗具合や労働時間の把握が難しくなります。そのため上司のプロジェクト管理や、労務担当者の労務管理、勤怠管理などのマネジメント関連に課題が出る点がデメリットです。具体的には次のとおりです。
- 従業員1人ひとりのタスク進捗確認や指示
- 始業時間・就業時間・残業時間の把握・記録 など
業務フローやその他制度の変更が必要になる
リモートワークを導入するうえで、業務フローや交通費の支給ルールや労務管理の方法、人事制度などについて大幅な見直しが必要です。また変革に際し、経営陣や従業員への理解を得られるかどうかも課題になります。
導入シミュレーションや対費用効果などをまとめるのにかかる労力や時間もデメリットといえます。
従業員側のデメリット
従業員側のデメリットは次のとおりです。
- 生産効率が落ちる可能性がある
- コミュニケーション不足の弊害が大きい
- 自己管理や業務のペース配分が難しく評価にかかわる
生産効率が落ちる可能性がある
「リモートワークで生産効率が上がる」との事例もありますが、落ちるケースも少なくありません。仕事のオンオフの切替が難しい、家族がいて集中できない、監視の目がないからだらけるなどの原因が考えられます。
またオフィスワークほど仕事環境が整っていない点も理由の1つです。これは日本の企業・職場にリモートワークが浸透しておらず、環境整備が追いついていない背景があると推測されます。
大手ソフトウェア・コンピュータ会社の調査ではリモートワークの生産性について、アメリカでは7割以上が上がったと答えたのに対し、日本ではわずか2割にとどまったとの結果が出ています。下がったとの回答は4割を超えました。
東商の調査でも、テレワークを再開しない理由として「業務の生産効率低下」が44%を占めています。
コミュニケーション不足の弊害が大きい
リモートワーク中は、従業員同士が同じ空間で仕事することがほぼありません。コミュニケーション量が不足するため、親交が深まらないなどのデメリットが発生します。とくに新入社員は目で作業を見る機会や質問するタイミングがなくなり、焦りや孤独感を抱えやすくなります。
また適度な雑談が減る影響も無視できません。一般社団法人日本能率協会が実施した「ビジネスパーソン1,000人調査」にある、雑談についての結果をみていきます。
- 業務の生産効率が上がると61.1%が回答
- 業務の創造性を高めると60.3%が回答
- 職場の人間関係を深めることにつながっていると76.6%が回答
- 自分にプラスになると79.5%が回答
従業員同士の何気ないコミュニケーション機会がゼロになるのは、職場によっては大きなデメリットになるといえるでしょう。
自己管理や業務のペース配分が難しく評価にかかわる
リモートワークでは従業員自身が管理者になるため、オフィスワーク以上に自己管理や業務のペース配分を考える必要があります。もし管理を誤って業務の成果物や数値が悪くなれば、従業員は評価を落とすことになるでしょう。
また仕事のオンオフの切替ができずに、逆に長時間労働に陥る従業員も少なくありません。
厚生労働省では対策として、「テレワーク時の時間外・休日・深夜労働の原則禁止」や「メール送付・システムアクセスの制限」などを呼びかけています。
2021年のリモートワークの普及状況
総務省の調査を見ると、リモートワーク(調査ではテレワークのこと)を導入する企業は令和元年から2年にかけて約2倍に増加しています。しかし2021年の夏の終り頃から、4回目の緊急事態宣言の解除に向けて、徐々にオフィスワークに戻す動きも出てきました。
また中小企業や小規模事業者の導入は苦戦中です。総務省と東商のどちらの調査でも、企業規模が小さいほどリモートワークの実施率が低いという結果になっています。東商の調査結界は次のとおりです。
- 調査対象企業のテレワークの実施率が5月調査時と同じく40%を下回った
- 従業員301人以上の導入率が75%に対し、50人以下は31%と実施率に差があった
とはいえ、リモートワークの有用性やハイブリッドワークの誕生などもあり、今後もリモートワークを継続する企業は少なくありません。
企業の担当者は、リモートワークを前提とした採用活動や労務管理の必要性をチェックしておきましょう。
リモートワークを企業で導入する際のポイント
リモートワークを企業で導入する際には、課題の把握と解決方法を事前に検討する必要があります。以下ではリモートワークを導入する際のポイントを解説します。
リモートワーク導入時の課題
リモートワーク導入時の課題としてよく挙がるのは次の要素です。
- 情報セキュリティ面での不安
- 迷惑メールや詐欺メールへの対応
- リモートワークを行う従業員の勤怠状況の整理
- 書類のペーパーレス化
- 捺印・押印の廃止
- 経営陣やITに慣れていない社員への理解 など
導入の前には「自社ではどんな課題があるのか」「課題を解決するにはどの業務を見直せばよいのか」をしっかり分析しましょう。
リモートワーク導入問題の解決方法
リモートワークの導入問題を解決するには、クラウドツールやWeb会議ツールの選定が大きな鍵です。自社が持つ解決すべき課題に対して、最適なものを選びましょう。
リモートワークに使用する主なツールは次のとおりです。
- IT資産管理ツール:社内システムへのアクセスやセキュリティ更新状況などを総合的に監視する
- エンタープライズサーチ:社内のシステムやWebサイトなどに散らばる情報を横断的に検索できる
- ビジネスチャットツール:従業員同士のテキストコミュニケーションを円滑にする
- Web会議ツール:取引先との商談や社内会議をサポートする
- 文書管理システム:ドキュメントやファイルを複数人で共有をサポートする
総務省の調査によると、クラウドツールの導入効果に関して「ある程度効果があった」が54.6%、「非常に効果があった」が32.5%と、合計で87.1%が効果を実感しています。
ツールを導入後は、ルール制定や従業員への教育を行いましょう。
- フリーWi-Fiは使用しない
- 業務用パソコンやタブレットを放置して移動しない
- リモートワークを行う従業員の勤怠状況の整理
- 第三者から覗かれない工夫を行う
- 端末ごとにセキュリティソフトを導入する
- リモートワークに関する勉強会を開催する など
リモートワーク(テレワーク)は業務改善のきっかけになる
オフィス外で自由に働けるリモートワーク(テレワーク)導入は、企業にとって業務改善の大きなきっかけになります。企業・従業員の双方にとってメリットとデメリットがあるので、事前に導入のメリットやコスト、導入後の教育などをまとめておきましょう。
もしリモートワーク導入に課題があるときは、住友電工情報システムへ一度ご相談ください。弊社ではリモートワーク導入時の問題を解決できる「MCore」や「楽々Webデータベース」、リモートワークを効率化する「楽々WorkflowII」「楽々Document Plus」「QuickSolution」など、さまざまなITソリューションを提供しています。
「社内の情報を管理しつつセキュリティを強化したい」
「書類や契約締結の電子化が必要」
「社内での資料やファイルの共有をもっとスムーズにしたい」
上記の悩みを持つ担当者は、下記のページにて各製品の詳細をご覧ください。
https://www.sei-info.co.jp/column/telework-problem/
参考文献
- 一般社団法人日本能率協会 2021年「ビジネスパーソン1000人調査 」
https://jma-news.com/archives/5103 - 総務省 「令和2年通信利用動向調査」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/210618_1.pdf - 東京都産業労働局 「多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/hatarakikata/telework/02report.pdf