株式会社リクルート
医療と健康の総合ポータルサイト”ここカラダ”
目次
医療系新事業のサービス「ここカラダ」の業務システムを
楽々FrameworkIIで構築
高品質・高生産性の開発ツールとして導入、困難と思われた高いQCD目標をクリア
「ここカラダ」誕生
2005年12月、「医療と健康の総合ポータルサイト『ここカラダ』」が稼動し、インターネットで公開された。
「ここカラダ」は、一般のサイト訪問者向けに、(1)病院検索、(2)症状チェック、(3)病気事典、(4)お薬事典の4つのサービスをWeb上で提供しており、なかでも(1)の病院検索は「ここカラダ」のメインとなるマッチング・サービスだ。
通常、病気になった人は、職場や自宅の近くにあって自分の症状に合致した病院や、その病気に詳しい医者を探している。一方、医療機関、特に開設間もないクリニックは、もっと患者に来院してほしいと思っている。
この双方のニーズをWeb上でマッチングさせるのが病院検索で、15万件を超える医療機関を検索できる。
FIT部 ITプロデューサー
河原 宜弘 氏
このサイトを運営するのは、株式会社リクルートと三井物産株式会社の共同出資により2005年8月に設立された株式会社アールスリー・ヘルスケアプランニング(R3HP社)だ。R3HP社では、医療機関から「ここカラダ」への情報掲載を受注し、サイト上で公開する。その際、受注管理、請求書発行、原稿制作、進行の管理という業務が発生する。
全く新たな事業を担うこととなったR3HP社にとって、この一連の業務をカバーする業務システムは不可欠であり、早期に構築する必要に迫られた。そのプロジェクトリーダとして抜擢されたのが、株式会社リクルートFIT1部ITプロデューサーの河原宜弘氏である。河原氏は入社以来、一貫して業務システムの開発・維持を手掛けてきた業務システムのプロ。このプロジェクトでは企画、立ち上げからマネジメント全般を担当することとなったが、業務システムに関する豊富な経験が、このプロジェクトを成功に導くこととなる。
ぎりぎりの納期に向けて「玄白」プロジェクト始動
今回のシステムに必要な機能は、掲載する医療機関およびその審査に関する「顧客管理」、医療機関からの「受注管理」、掲載するWeb原稿の「原稿制作/進行管理」、掲載後の「請求~入金管理」が中心で、加えて業績管理やサイト閲覧実績集計の機能も必要であった。
このうち、請求~入金管理についてはリクルートの既存システムを流用するので、受注データ、請求データのバッチ接続機能のみを開発した。また「ここカラダ」への最終的な原稿掲載については、原稿情報、掲載予約情報から静的なHTMLをバッチで生成させ、そのHTMLを「ここカラダ」に反映させることにした。
残る顧客管理、原稿制作/進行管理、受注管理、業績管理については、本格的基幹業務システムを新規に構築するしか方法がなかった。プロジェクトチームは近代医術の先駆者である杉田玄白にちなんで新システムを「玄白」と名づけ、12月に迫った公開日に向けて、2005年7月から構築に着手した。
突きつけられた厳しい要求
しかし開発着手早々、「玄白には、極めて高いレベルのQCDを要求された」と、河原氏はふりかえる。品質面(Quality)では、医療という安心・信頼性に密着したサイトの性格上、顧客や一般ユーザの利用に影響する不具合は皆無とすることが求められた。開発費(Cost)については、妥当と判断して提示した当初見積額に対して、R3HP社からは、この半分にせよと、厳しい要求が出た。さらに納期(Delivery)については11月開発完了が絶対条件であり、着手から5ヶ月間で、サイト構築と玄白開発を同時進行で進めなければならなかった。
これらの高度なQCD要求を満たすには、普通の開発方法では実現困難であり、品質面でも生産性の面でも、かなり効果がでる新しいツールがどうしても必要であった。
高いQCD要求への解は、楽々FrameworkII
ツールの候補を選定したのは、Web業界やIT技術の最新動向を調査し提案する、BIコラボレーション委員会と呼ばれる組織で、同委員会では開発生産性の高さを評価して、部品組み立て型のJavaフレームワークである楽々FrameworkIIを玄白に適用することを提案した。
この提案を受けて、プロジェクトチームでは楽々FrameworkIIの特長・特性を徹底的に分析した。その結果、デザイン重視の画面や複雑なビジネスロジックについては優位性は見られないものの、全体として生産性が数倍に向上することが期待できるとの判断に至った。さらにその生産性試算をもとに納期・コストを算出し、ツール導入によりR3HP社にどれだけの効果・利益がもたらされるかを金額換算した。これらの調査・分析の結果を提示することで、最終的にR3HP社の同意を得られ、楽々FrameworkIIの導入が正式に決定した。
大胆な方策に挑む
ツールを得たとはいえ、5か月で開発しなければならないという現実を前に、河原氏は思い切った方策を実行した。
- お試し開発期間要件定義と並行して、楽々FrameworkIIによるお試しの開発を繰り返した。第一の狙いは、純粋にプログラマーに早く慣れてもらうということであった。第二は、楽々FrameworkIIでは、そのプログラム部品と要件が適合する場合に生産性が飛躍的に向上する特性を実際に検証し、要件定義でのユーザ部門の期待値の調整・抑制を進めた。第三は、このお試し開発期間を通じて、狙った生産性が本当に得られるかの再評価も行なった。
- プロトタイプのフル活用要件定義のフェーズで作成するドキュメントは、あえて最低限の資料に限定した。データベース定義から楽々FrameworkIIによって自動生成されたプロトタイプ画面をユーザ部門に提示し、要望にあわせて画面修正を行うことで要件定義を進めた。表示桁数の変更や画面レイアウト変更などの簡単な修正なども、実際に楽々FrameworkIIを使って、すぐにその場で対応した。
- データモデル設計への重点取り組み楽々FrameworkIIはデータモデルをきちんと作れば、後々の小さな変更には簡単に対応できる。逆にデータモデルの設計をいい加減にやってしまうと、モデル変更からのやり直しが発生しうる。玄白の開発では、データモデル設計に対して、従来以上の期間と工数を割いた。
- テスト項目の削減テスト工数削減のため、テスト内容の分担を見直し、例えば入力/表示桁数などの単項目でのチェックはプログラマーに任せ、レビュワーのテストは、思い切ってノーチェックとした。これは楽々FrameworkIIの項目オブジェクトが、単項目での動作を保証してくれることを利用したものである。この結果、レビュワーの作業をプラグインでの処理やシナリオのチェックに集中させることができた。
品質、コスト、納期の要求をすべてクリア
5か月の開発期間はあっという間に過ぎたが、困難と思われたQCD目標は、結果的に全て達成することができた。品質については、受注/制作業務の停滞など、顧客影響を及ぼす重大な障害はゼロであり、納期についても、1日たりとも稼動を遅らせることはなかった。
また当初見積対比半減という開発コスト要求については、最終的に1/3まで抑えることができた。「インフラ部分含め全般にわたって抑制した結果であるが、楽々FrameworkIIを使ったことで開発コスト削減できた効果は大きかった」と河原氏は語る。マスターデータ管理については自動生成の画面をそのまま使用できたこと、ビジネスロジックの組込みについても極力プラグインのコーディングをせずに業務部品の機能を適用したことなどが寄与した。さらに要件レビューなどの作業を最小限に抑えたことで、ユーザ部門の負担を抑制できたことはR3HP社にも好評であった。
楽々FrameworkII活用のポイント
このように期待通りの効果をあげた楽々FrameworkIIであるが、その特性をうまく引き出して生産性を大幅に向上させるには、プログラマーの習熟度も必要であり、特に玄白のような短期開発のプロジェクトではその点が重要と河原氏は考える。「第一にお試しの開発期間を十分にとること、第二に住友電工情報システムのサポートをうまく利用すること。こんなことを聞いてもよいのかと思うことまで質問して、フル活用する。開発の初期段階で、開発メンバーの習熟度を一気に引き上げることが、後々までの生産性向上につながっていく」と、河原氏はアドバイスする。
「ここカラダ」のこれから
オープン後も順調に稼動し、ビジネスとしても軌道に乗ってきた「ここカラダ」。その今後について河原氏は「原稿制作管理の機能をさらに強化して、近い将来、医療機関が自ら原稿制作できるようなフレンドリーなシステムにしていきたい」と語る。医療の総合ポータルとして健康や病気について考えるすべての人に役立つサイトを目指し、河原氏の挑戦は続く。
※本事例中に記載の社名や肩書き、数値、固有名詞等は取材時点の情報です。