社団法人岡山県農協電算センター
大規模ホストシステム再構築
大規模ホストシステムを再構築してコスト削減とサービス向上を実現
将来を見据えた長期計画を着実に実施し、膨大なシステムを安定的に移行。
はじめに
「岡山の桃は白くて柔らかく、そして甘いんです。ブドウなら、大粒で種なしのピオーネや、マスカット・オブ・アレキサンドリアなど。岡山県はくだもの王国なんですよ。」と地元への愛情たっぷりに語る社団法人岡山県電算センター(以下、JA岡山電算センター)開発部部長 児子晴一氏。
「今回、システムを再構築した購買業務は、組合員である、ここ岡山県下の農業者が仕入れを行う業務で、JA側からみると、受注、発注、受入、配送、在庫、未収金、未払金など広範囲な業務が対象です。」
汎用機で稼動していた旧システムは約100万ステップというから、かなりの規模。今回その基幹業務のダウンサイジングを断行し、JA岡山電算センターとして初の本格的Webシステム開発ながら、無事に完了させることができた。
プロジェクトを成功に導いた、関係者の努力と、長期に渡る計画的な取り組みについてふり返ってみる。
開発部部長
児子 晴一 氏
開発部課長
虫明 利一 氏
ダウンサイジングへの転機
JA岡山電算センターが提供するシステムは購買業務のほかに販売業務、共済業務など多岐に渡り、以前はこれらを汎用機上で運用してきた。
転機が訪れたのは今から7年前の2000年。システム規模としてほぼ半分を占める信用業務が2003年9月に全国システムのJASTEMに移管されることが決まったのだ。JASTEMへの移管決定は、汎用機の束縛から解放されることを意味し、制約にとらわれず農家、農業にかかわる新たな業務システムに取り組むことが可能となる。逆に、大口の信用業務が提供メニューからなくなることは事業面でも影響が大きく、よりコスト重視の事業展開が必須となる。
JA岡山電算センターでは、JASTEM移行後の「あるべき姿」について議論を重ねた結果、健全なセンター運営のための開発・保守・運用コストを圧縮しながら、迅速・柔軟に対応できるシステム基盤と人材確保、新たなIT時代に対応できる技術集団化を目標と掲げた。
そしてシステム基盤の将来方向として、Webシステム化とダウンサイジングが必須との結論に達したのである。
まず、システム基盤の先行整備
ダウンサイジングをいつ、どのように実施するか。もちろん2003年9月にあわせて実施する方法もあったが、JASTEMへの移行作業だけでも膨大な作業が見込まれており、他の作業を並行して進めることは現実的には不可能だった。そこで児子氏は、将来のダウンサイジングに備えて、システム基盤のみを先行して整備することを考えた。
その第1が端末処理サーバーの導入である。信用業務がJASTEMに移行した後も、その他の業務のために汎用機を使用することになるが、汎用機特有のホスト端末は廃止して、端末はすべてPCに切り替えたのだ。それを可能としたのが新たに開発した端末処理サーバーで、これを汎用機とPC端末の間に設置。これによりシステムは汎用機で動かしながら、端末は先行してWeb化することに成功した。また、エンドユーザーがこの時点でWeb画面に慣れ親しむこととなったため、後のダウンサイジング時点で抵抗なく受け入れてもらうことができた。
基盤整備の第2はソフトウェア。将来の移行作業を考えると、階層型データベースや、PL/Iやアセンブラでコーディングされていたプログラムの特殊性がコンバージョン作業の妨げとなる可能性が高く、そのためデータベースはRDBに、PL/IとアセンブラはそれぞれCOBOL,Cのプログラムに思い切ってコンバートしたのだ。
Javaでの再構築に挑む
JASTEM移行およびシステム基盤の先行整備が無事に終わると、JA岡山電算センターのダウンサイジングへの挑戦が本格的にスタートする。最初のターゲットとして、物流機能中心に大幅な見直しが切望されていた購買事業に取り組むこととなり、2003年11月にプロジェクトが発足。具体的な進め方として、(1)パッケージ導入(2)再構築(3)単純移行を比較検討した。(1)(3)は、開発期間は短いが、柔軟性が低い。(2)は柔軟性は高いが、作業量は最も多い。最終的に、目標としていた「あるべき姿」を基準に、柔軟性に富む(2)再構築を選択し、開発コスト圧縮、短期構築のため、他県JAのシステムをベースにJava開発ツール「楽々FrameworkII」(以下、楽々FW)を導入して取り組むこととなった。
楽々FWを採用することになった決め手について児子氏は、「パターン化された部品によりシステムが標準化される点ですね。初めてのWebシステム開発で、大規模システムを短期間に開発するには欠かせないポイントでした。」と語る。このほか、実績が豊富だったこと、サポート体制が充実していたこと、他県JAで採用実績があったことも評価のポイントとなった。
1000本を超えるプログラムを開発
2004年4月から要件定義、外部設計を進め、9月から本格的開発に着手した。開発に際しては、現行機能を維持しつつ汎用機の制約で実現できなかった機能を追加すること、専任オペレータの廃止、削減可能な機能の明確化により開発規模を圧縮することなどを方針として掲げた。
初めてのJavaシステム開発に向けて開発チームが習得すべき事項は多かった。当時の状況について、開発部課長の虫明利一氏は「それまでER図を作成したことはなかったので、とにかく勉強しながら設計を進めました。また開発当初は、楽々FWの部品がどこまでの機能を実現してくれるのかわからず戸惑いもありました。」と打ち明ける。しかし開発メンバーの努力により習得が進むにつれて、それらの問題も解消された。こうして大規模システム開発は着実に進み、オンライン320本、バッチ420本のプログラムを完成させて2005年9月稼動を迎えるに至った。なお本システムはその後バッチ機能を中心に機能追加を進め、現在ではオンライン400本、バッチ800本の規模となっている。
楽々FrameworkIIによる効果
「楽々FWIIだから、初めてのJava開発ながら大規模システムを開発することができたのだと思います。それと楽々FWIIを導入することによって、コスト削減はもちろん、保守性や操作性が向上しました。」と、虫明氏は言う。再構築前の購買業務システムでは、データベース内に冗長なデータが散見され、保守作業を難しくしていたが、今回の再構築ではER図の採用により、データの正規化を進めて冗長性をなくした。プログラムについては徹底した標準化、部品化で開発工数を軽減でき、特にDBメンテナンスプログラムはほぼ自動作成できた。また、設計ファイルの変更のみでアプリごとの設定が可能なため、保守が容易となった。
操作性に関しても、参照機能の付いた入力画面が自動的に生成されるので従来は1本ずつ手作りしていたユーザーフレンドリーな画面を豊富に提供できるようになった。例えば電話番号、名前などを入力するだけで顧客コードが特定できるようになり、また商品名から検索することで品名コードも簡単に入力できるようになったのである。
購買システム構成図
商品名を入力すると、商品コードも簡単に入力できる。
ダウンサイジング後の展開
2005年9月に購買業務システムが稼動したあと、第2次のダウンサイジングとして、汎用機上に残る全業務をオープンシステムにコンバージョンする作業に着手し、2007年9月に全面稼動に至った。計画的、段階的に進められてきたダウンサイジングは完了し、2000年時点での目標はほぼ達成できた。
JA岡山電算センターでは、今後、事務フローを組み込み内部統制を推進するOAシステム、トレーサビリティーを強化して食の安全・安心を支援するシステム、いわゆる地産地消や直売所販売など販売消費を促進して地域の活性化につながるシステムなどに取り組んでいく予定である。岡山県下の地域農業の復興と安全・安心な農畜産物の提供を支援するシステムの構築を進める、JA岡山電算センターの挑戦はこれからも続いていく。
※本事例中に記載の社名や肩書き、数値、固有名詞等は取材時点の情報です。